世界標準の通貨システム「金本位制」とは?

 生産と消費の中心であるアメリカ経済がクラッシュすると、それは世界中に波及し、アメリカのバブル崩壊は「アメリカ発の世界恐慌」となってしまった。これに各国はどう対応したのか?

 結論から言えば、最悪の結末に向かって舵を切るんだけど、ここでは少し遡って、世界を牛耳る通貨体制の背景から、ここまでの流れを少し整理してみよう。

 世界の主要国は、第一次世界大戦前まで、当時の組長であるイギリス主導で「金本位制」を採用していた。これは通貨の価値を金との交換で保証する制度で、19世紀にイギリスの発案により世界に広まった。

 1817年、貨幣法に基づいてソブリン金貨が発行されたのが、金本位制の始まりだ。その後、欧州でイギリスとつき合いの深い国が徐々にこの制度を導入し、日本も1897年、金本位制を採用した。金本位制を採用している国の通貨(=兌換紙幣)は、銀行に持って行くと、何グラムかの金と交換してくれる。例えば、日本も19世紀末から採用していたが、その当時の交換比率は「1円=0.75グラムの金」だった。

 では、この制度は何のために生まれたか? それは世界貿易の拡大とともに、他国通貨を受け取る局面が増えてきたからだ。19世紀、産業革命のおかげで「世界の工場」となったイギリスには、貿易でよその国に売りたい商品は山ほどあった。

 ところが、そんなイギリスにとって頭の痛い問題が一つあった。それは、他国通貨の価値がわからないという問題だ。普段からつき合いの深い国、例えばフランスのフランやドイツのマルクなら大丈夫だ。困るのは日本みたいな謎の国から、突然1円札なんて見たこともないものを受け取ってしまったときだ。

 小柄でちょこまかした連中から、突然渡された謎の紙切れ。どれだけ価値があるのかと聞いても、ニコニコ笑って「ダイジョーブ、ダイジョーブ」と繰り返すのみ。ダイジョーブじゃねーよ、ヘラヘラしやがって。こっちは商品渡してんだぞ。この紙切れ、本当にちゃんと価値あるんだろうな?

 通貨は「額面価値=素材価値」じゃない。だから正直、変な国の通貨は受け取りたくない。でも貿易は拡大したい。そこでこの考えが出てきた。「世界共通の価値が認められるもの(=金)と通貨の交換を、各国が保証することにしよう」と。これが金本位制の始まりだ。

 前述したように、イギリスは世界にさきがけ1817年に金本位制を導入した。すると、ポンドが価値の安定した国際通貨と認められるようになり、ポンドを用いた貿易が促進した。そして、金保有量に余裕のある国が徐々に金本位制を導入し始め、1870年代にはドイツやフランス、1880年代にはアメリカが金本位制に移行し、日本も1897年より金本位制を導入するに至ったのだ。

 金本位制を導入すれば、その国の通貨は国際社会で信用され、貿易が促進する。なるほど、金には世界共通の価値があるから、日本のことはいまいちわからなくても、誰も日本との貿易を拒まなくなるってわけだ。

 しかも金本位制下では、通貨価値が非常に安定する。この制度下では原則、円高や円安は発生しない。つまり、貿易を不安定にする「為替リスク」(=円高・円安などの進行に伴う不利益)がない。もうどこまでいっても「1円=0.75グラムの金」だ。これが変わることがないなら、利益の計算も安心だ。

 しかし、この制度は維持が大変だ。なぜなら、金と通貨の交換保証を確実にする以上、もし世界貿易できるほど多額の通貨を発行したいなら、まずその国は莫大な量の金を保有しないといけないことになるからだ。

 これに日本は当初、苦しんだ。だってそんな金ないもん。イギリスには植民地から集めてきた金があるだろうけど、かつての黄金の国・ジパングには、今やそんな金はない。マルコポーロが『東方見聞録』で「掘れども尽きず」と表現した、岩手の玉山金山は江戸時代に閉山し、佐渡金山を始めとする他の金山も1970~1980年代あたりに閉山し、今は鹿児島の菱刈鉱山だけが辛うじて生きている金山だ。

 結局、日本が本格的に金本位制を導入できたのは、日清戦争(1895年)後。つまり、日清戦争で得た金2億両という賠償金を使って、日本の金本位制は始まったのだ。

 これで日本も、世界の主要国と対等に貿易できる! でもこの制度、何かモヤモヤとした不安が感じられる。その不安の正体とは一体何なのか?