「人生を一変させる劇薬」とも言われるアドラー心理学を分かりやすく解説し、ついに国内300万部を突破した『嫌われる勇気』。「目的論」「課題の分離」「トラウマの否定」「承認欲求の否定」などの教えは、多くの読者に衝撃を与え、対人関係や人生観に大きな影響を及ぼしています。
本連載では、『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏が、読者の皆様から寄せられたさまざまな「人生の悩み」にアドラー心理学流に回答していきます。
今回は、「勇気の持ち方」についてのご相談。「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と喝破するアドラー心理学を踏まえ、岸見氏と古賀氏が熱く優しく回答します。

忖度せず伝えるべきことは伝えようPhoto: Adobe Stock

嫌われることを恐れるな

【質問】マナー講師をやっています。生徒さんを厳しめに指導をする必要があっても、それで嫌われないか悩んでしまい、気持ちのバランスを保つのに苦しむことがあります。うまくバランスを保つ秘訣を教えていただけないでしょうか。(40代・女性)

岸見一郎:『嫌われる勇気』というタイトルの意味は「嫌われることを恐れるな」であって、けっして「嫌われなさい」ということではありません。

 他者から嫌われることを過剰に恐れる人がいます。「こんなことを言ったらどう思われるだろう」と考えすぎて、本来言うべきことが言えない人、しなければいけないことができない人です。そういう人に、嫌われることを恐れなくても大丈夫ですよと強く伝えたい。『嫌われる勇気』とは、そういう趣旨の本なのです。

 たとえ人から嫌われても、本当に必要なことは言わなければならないし、しないといけない。それを実行する勇気を、人から嫌われないように生きてきた人にこそ持ってほしい。

 勇気をもち続ければ、よく思われたいとか嫌われたくないという思いから解き放たれ、自分自身の行動指針が見えてくるはずなのです。

古賀史健:アドラー心理学の「目的論」に絡めて言うと、「嫌われる勇気」の目的は、当然「嫌われること」ではありません。では目的は何かといえば、その勇気によってより幸せに生きる、より自分らしくあることなわけです。多少嫌われることがあっても、本当の目的がどこにあるのかを考えることが大事だと思います。

 仕事上でことさら波風を立てて嫌われるような振る舞いをするのはもちろん良くないことですが、マナー講師という仕事を通して自分がやりたいこと、自分が伝えたいことは何かを考えてみて下さい。過剰に人の顔色を伺って、こんな言葉を使うとあの人には伝わるけどこの人からはクレームがくるかもしれない、などと考えてしまうと、伝わるはずの人にも話が届かなくなってしまいます。

『嫌われる勇気』も、多くの方々に良い本でしたと言っていただける反面、とんでもない本だという批判もきます。ですが、その批判を覚悟して伝えたいメッセージを真っ正面から伝えないと誰にも届かなくなってしまう。自分が本当に伝えたいことは何か、自分が本当に伝えたい人は誰か、ということを考えれば優先順位は自ずと見えてくると思います。