アドラー心理学の入門書として2013年末に刊行された『嫌われる勇気』。発売から10年余を経た今もベストセラーとして読み継がれ、ついに国内300万部を突破しました。「人生を一変させる劇薬」とも言われるその内容は、多くの読者に衝撃を与え、対人関係や人生観に大きな影響を及ぼしています。
そこで本連載では、『嫌われる勇気』が説くアドラー心理学の重要ポイントについて、著者の二人が改めてわかりやすく解説していきます。3回目の今回はアドラー心理学の最重要の教えとも言える「共同体感覚」「人生最大の嘘」、そして『嫌われる勇気』の制作秘話を紹介します。
アドラー心理学の究極の目標
Q:「共同体感覚」ってなに?
A:アドラーは人間の究極的な目標として「共同体感覚」という概念を掲げました。共同体感覚(ドイツ語Gemeinschaftsgefühl)は、英語でsocial interest と言います。「社会への関心」、もっと噛みくだいて言えば「他者への関心」という意味です。
多くの人は「自己への関心(self interest)」で頭がいっぱいになるものですが、それを「他者への関心」に切り替える。そして他者を仲間だと見なし、そこに自分の居場所があるのだと実感する。それが共同体感覚です。理解に時間のかかる概念ですので、『嫌われる勇気』本文で詳しく説明しています。
Q:「人生最大の嘘」とは?
A:アドラーは、しばしば「人生の嘘」という言葉を使っていました。これはさまざまな口実を設けて人生の課題(仕事、交友、愛)から逃げるさまを指した言葉です。さらに『嫌われる勇気』では、「過去や未来ばかりを見て『いま、ここ』を真剣に生きないこと」を、人生最大の嘘、と呼んでいます。わたしたちは過去に戻ることはできません。そして未来を見ることも不可能です。わたしたちにできるのは「いま、ここ」を真剣に生きること。それだけなのです。
『嫌われる勇気』の制作秘話
Q:どうして哲人と青年が出てくるの?
A:古代ギリシアの哲学者プラトンは、その師ソクラテスの教えを対話篇という形式で書き残していきました。対話とは、哲学の原点であり中心軸であると考えられます。
そして『嫌われる勇気』をご一読いただければわかるように、アドラー心理学は臨床や実験に重心を置いた心理学というよりも、かぎりなく哲学に近い思想と捉えることができます。わたしたち(作者両名)は数十時間にわたって哲人と青年のような激論を重ね、そのすべてを『嫌われる勇気』に落とし込みました。
Q:青年は口が悪いって本当? どうして?
A:『嫌われる勇気』に登場する青年は、年長者であるはずの哲人をかなり口汚く罵ります。これは青年の個人的資質でもありつつ、一方で哲人と青年が師弟関係(縦の関係)ではなく、対等な横の関係を結んでいることも表しています。
また、青年の口調はロシア文学の影響が大きく、とくにドストエフスキーの小説の登場人物をモデルに描かれたことも、いまとなっては懐かしい制作秘話です。
Q:なぜ『嫌われる勇気』というタイトルになったの?
A:アドラー心理学は「勇気の心理学」とも呼ばれ、勇気は非常に大切なキーワードでした。その中でも、集団の和を重んじる日本人読者にとって最も困難を伴う勇気として、「嫌われる勇気」というタイトルが選ばれました。
しかし、このタイトルは世界各国でも大きな衝撃をもって支持を受け、「嫌われる勇気」はあらゆる現代人に必要とされる勇気だったのだと作者・スタッフ一同、思いを新たにしているところです。