「一部の人たちだけで重要な情報を握る。この文化を放置してはいけません」
そう語るのは、これまでに400以上の企業・自治体・官公庁等で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、時代遅れな体質をもつレガシーな組織には共通する文化や慣習、空気感があり、それらを見直していくことで組織全体の体質を変えていけると気づきました。
その方法をまとめたのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』です。社員、取引先、お客様、あらゆる人を遠ざける「時代遅れな体質」を変えるためにできる、抽象論ではない「具体策が満載」だと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「秘密主義」が組織体質に及ぼす悪影響について指摘します。

【職場の謎文化】「喫煙部屋とか飲み会の場で重要な話が決まる」これを放置すると組織が崩壊する理由。イラスト:ナカオテッペイ

情報を共有しない秘密主義の組織

 世の中には情報共有の概念がない組織がある。
 担当業務が細分化され、各自が自分の仕事をまっとうする。情報もその人だけが抱えて、わざわざ他人に共有しようとも思わない。
 そして飲みの場やタバコ部屋などの非公式の場で、管理職やベテランだけで情報共有がされ、ものごとが決まってしまう。そんなクローズドな組織だ。

 あるいはチーム内での情報共有は行われるものの、セキュリティ意識の高さからか他所に共有しようとしない。社内のサーバにおかれた情報も、チームや部署が異なると閲覧できない。

 社外に対しても、SNSはもちろん社外フォーラムやコミュニティなどで自社に関して発信することも許されない。それどころか参加すら認められにくい(またはあからさまに嫌な顔をされる)組織もある。

情報で相手をマウンティングする不健全な体質になる

 その人しかわからない情報や仕事を増やすことはリスクになる。その人が休んだり辞めたりしたら仕事が回らなくなるからだ。

 ひどい場合には、自分がいないと仕事が回らなくなる状況を利用し、他者にマウンティングする人が現れ始める。

「情報がほしければ取りに来い」

「情報を知りたければ言う通りにしろ」

 エスカレートすると、情報や仕事を人質にしてハラスメントを繰り返す人や、コンプライアンス違反を繰り返す人がやりたい放題になる。目先の仕事が回らなくなるどころの騒ぎではない。組織のモラルが崩壊する。

 また、アクセスできる情報が人や部署によって異なることは、共創においても障壁となる。限られた情報だけでは、新たな発想も生まれにくいし多様な議論もしにくい。情報共有が行われない文化は、さまざまな不健全さを組織にもたらすのである。

情報を発信するところに、よい出会いが生まれる

 かたや、チーム内でも積極的に情報を共有し、助け合う職場もある。
 SlackやTeamsなどのツールを駆使し、関係者に情報を一斉に共有。オフィス勤務者もテレワーク勤務者も、時短勤務者や複業・兼業をしている人にも公平に情報が共有され、意思決定に関与できる。

 他部署や社外への情報公開にも意欲的で、それにより他者とつながり、コラボレーション(共創)で課題解決や価値創造を行う。そんな公開主義な組織もある。

 社内の人だけで、または組織やチームの中だけで事業運営や課題解決ができるのであれば秘密主義であっても特段問題はない。
 しかしながら社内では解決できない課題やテーマについては、外で仲間を探してつながるしかない。他者や社外にも情報を共有したり、日頃から情報を発信したりしていれば仲間探しがしやすくなる。

 人材採用にも少なからず影響する。何をしているのか、誰がどんな思いを持って仕事に取り組んでいるのか、どんな技術やノウハウがあるのか、そういったことがわからない組織に意欲的な人が集まるだろうか。情報を発信する「顔が見える組織」にこそ意欲的な人が集まる。

あなたが率先して情報や気づきを発信する

 そもそも情報共有の概念や発想すらない組織。まずは、あなたが率先して情報を共有してみよう。
 といっても、いきなりSNSなどで広く発信すると問題になることもあるので、まずは半径5m以内から。

 たとえばチームミーティングで、仕事に関連するニュースの内容や所感、仕事を通じて気になったこと、仕入れた情報などを共有するなど。まずはチームの中で、仕事に関連する情報や気づきを発信するところから始めてみよう。そこから、情報共有の発想がチームに小さく芽生えていく。

情報を囲い込みたがる人に声をかけてみる

 情報を囲い込もうとする人には、こちらから関心を持って積極的に質問したり話を聞いてみよう。
 そして皆に共有したほうがよいと思われる有益な情報を見つけたら、本人にその旨を伝える。

この情報、他の部署の人もほしがると思います」

この解決策、めちゃくちゃ有益だと思います。他にも困っている人がいると思うので、社内SNSに投稿していただけませんか?

「このファイル、他部署の人が見られるフォルダに置いてみてはいかがでしょうか?」

 人は自分に興味・関心を持ってくれる相手に心を開く生き物である。
 あなたからの興味・関心によって、相手の心の扉を小さく開ける。そこから情報共有に対して「まんざらでもない」と思ってもらえたらラッキーだ。

一歩踏みだす!

 ・あなたから率先して情報や気づきを周りに共有する
 ・相手に関心を示し、情報を広く共有してほしい旨を伝える

(本稿は、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)

沢渡あまね(さわたり・あまね)
作家/企業顧問/ワークスタイル&組織開発/『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰/あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/プロティアン・キャリア協会アンバサダー/DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『新時代を生き抜く越境思考』『バリューサイクル・マネジメント』『職場の問題地図』(いずれも技術評論社)、『「推される部署」になろう』(インプレス)など、著書多数。趣味はダムめぐり。#ダム際ワーキング 推進者。