肥満や生活習慣病で
難聴になるメカニズム

 なぜこのような人がなりやすいか。それは内耳の聞こえの神経の周りには細い動脈が多くあるのですが、肥満や生活習慣病のある方は動脈硬化によって血流量が減少し、内耳に栄養や酸素が届きにくくなってしまうからです。するとエネルギーを多く使う、高い方の聴力から低下していきます。また肥満に伴う慢性炎症で、聴覚細胞も損傷してしまいます。

 冒頭の55歳の男性も、まさにおなかでっぷりで、血圧やコレステロール値が高いというメタボでした。ですから加齢性難聴のこれ以上の進行を食い止めるには、肥満を改善し、生活習慣病をきちんと治療することが大切だと話しました。

 日常生活ではウオーキングやジョギング、水泳、サイクリング、ヨガなどの有酸素運動を行い、バランスの良い食事を心がけるといいでしょう。食事では糖分の代謝と神経に大切なマグネシウムやカルシウム、ビタミンD、亜鉛、そのほか抗疲労物質であるイミダゾールペプチド(鶏肉、マグロ、サケに豊富)、脳機能を守る乳製品、青魚を意識して積極的に摂取してください。

聴力のセルフチェック
電子体温計の音が聞き取れるか

 さて、ここまで読んで、自分の「聴力」が心配になった方のために、加齢性難聴のセルフチェックの方法をお伝えしましょう。

 あなたは「脇の下に挟んだ電子体温計のピピッと鳴る音」が聞き取れるでしょうか。

 人間が聞き取ることのできる音の高さを「音域」といい、20ヘルツ~2万ヘルツといわれています。一般に耳の老化は高音域から始まるので、1万7000ヘルツ以上は20代から聞こえない人が出てきます。そして60代になると音域は、10代の頃の半分以下に当たる1万ヘルツ未満しか聞こえなくなる人が少なくありません。

 電子体温計のピピッと鳴る音はおよそ8000ヘルツ。これが聞こえないと、聴力がかなり落ちているということ。すでに加齢性難聴が起こっている可能性が高いです。その半分の4000ヘルツが聞こえないくらい聴力が低下すれば、秋なら鈴虫の鳴き声が聞こえません。

自分の指をこすり合わせてみて
カサカサという音が聞き取れるか

 加齢性難聴の進行度を知るものとしては「指こすり試験」があります。乾いた親指と、人さし指と中指の先を軽くこすり合わせると、カサカサという音がします。この音がだいたい2000ヘルツ。腕をピンと伸ばした状態で指をこすり、カサカサという音が聞き取れればOK。

 ですが腕を伸ばした位置では聞こえないという方は、すでに加齢性難聴が進行して、会話にも支障が出始めているはずです。

▼「指こすり試験」で聴力をセルフチェック
1)鏡の前で、左右どちらかの耳の横に片腕をピンと伸ばし、耳元から50~60センチメートル離れた位置で指をこする
2)腕をピンと伸ばして聞こえない場合は、少しずつ腕を縮めていき、聞き取れる位置を確認する。もう一方の耳も同じように行う

 実は中等度難聴と診断した55歳の男性の方は、この指こすり試験も聞こえませんでした。もし指をかなり近づけないと聞こえないようでしたら難聴が相当進んでいます。早めに耳鼻科を受診した方がいいでしょう。

 さて、生活習慣病と肥満に加えて、加齢性難聴をはじめ耳の不調を訴える人の大半に共通していることがもう一つあるのです。次回ご説明します。

>>第2回『顔に“異常なサイン”が出ている人は要注意!放置すると「加速度的に病気が悪化」日本人ほど危険な理由とは?』は2024年9月13日(金)公開予定です。