日本は世界の中でも特にメールを使ったコミュニケーションが高度に発達していて、すぐレスポンスがくることに独特の意味を持たせたり、打ち合わせ後のお礼メールを一つの礼節ととらえたり、長文で自分の思いを切々と語るためにメールを活用したりと、その使い方はさまざまです。

 しかし、世界から見ると、そうしたメールの使い方は実は相当特殊です。どっちが良い悪いという問題ではないのですが、残念ながらそうした力作メールをやり取りする習慣は世界にありません。

 逆に、長文メールを送る人を、考えがまとまっていないと判断することさえあります。私のメール文は、外国人から笑われるほど短いですが、アップル時代、スティーブにメールをするときも、3行以内で収めるように意識していたほどです。

 日本人の感覚だと、直接的に表現するのはどうも憚れて、つい遠回しに表現したり、相手の感情を損ねないために、背景や気遣いを入れてしまいますが、これは「相手に正確に伝える」ことを重視するプレゼン文化が浸透した欧米では、まったく理解されません。長いメールはただの言い訳にしか映りませんし、長いというのはブラッシュアップされていないことの証拠なのです。

 文面を短くすることは、何より自分が考えて考え抜いてどうしたいのかという「考えた痕跡」を表明することになっているのです。

「~をやってほしい。なぜならば……」
「私は~したい。なぜならば……」
「了解してほしい。ダメなら……」

 などと、自分が言いたいことや相手にしてほしいことを一つか二つに絞るようにします。メール文が長くなるのは、言いたいことが絞りきれていないからであり、優先順位を見直す必要があるのです。

 このあたりの感覚は日本的なメールコミュニケーションに慣れた人からすると、かえってそっけないように思えるかもしれませんが、コミュニケーションのスタイルとして知っておきたいことです。

 あるベンチャー企業のCEOであるイギリス人が、日本人のメールの文面は、いつも意味もなく「Thank you」だとか、「I'm sorry」を連発していて、結局何を言いたいのかよくわからないと言っていましたが、世界でのやり取りでは、言い訳は一切通用しないので、考えを絞り、メッセージを明確にすることだけを心がけましょう。(第7回に続く)

次回は5月10日更新予定です。


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山元賢治(やまもと・けんじ)
1959年生まれ。神戸大学卒業後、日本IBMに入社。日本オラクル、ケイデンスを経て、EMCジャパン副社長。2002年、日本オラクルへ復帰。専務として営業・マーケティング・開発にわたる総勢1600人の責任者となり、BtoBの世界の巨人、ラリー・エリソンと仕事をする。2004年にスティーブ・ジョブズと出会い、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任。iPodビジネスの立ち上げからiPhoneを市場に送り出すまで関わり、アップルの復活に貢献。
現在(株)コミュニカ代表取締役、(株)ヴェロチタの取締役会長を兼任。また、(株)Plan・Do・See、(株)エスキュービズム、(株)リザーブリンク、(株)Gengo、(株)F.A.N、(株)マジックハット、グローバル・ブレイン(株)の顧問を務める。その他、私塾「山元塾」を開き、21世紀の坂本龍馬を生み出すべく、多くの若者へのアドバイスと講演活動を行っている。
著書に『ハイタッチ』『外資で結果を出せる人 出せない人』(共に日本経済新聞出版社)、共著に『世界でたたかう英語』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。