夫は「運び込まれたときは本当に具合が悪かったんだろ。許してやってくれ」と言う。「あんたにボロカス言われる親父が可哀想になるなあ」とも言う。

 でも、一番可哀想なのは私と看護師さんではないだろうか。私も看護師さんも、万が一感染しても仕方がないという悲壮な思いで、脱力して意識不明らしき老人を担いで車まで必死になって運んだのだ。

 それなのに、一瞬目を離した隙に、軽やかな足取りで車を降りて自宅に戻り、トイレに向かっていた義父。その後ろ姿は元気そのもので、つい1分ぐらい前に息も絶え絶えの白目状態で全身の力を抜き、だらんとした両足を引きずられるようにして車に乗せられた老人と同一人物とは思えなかった。

 看護師さんはきゃーっ!と叫んだ後に「歩けてるやん!」と大声で言っていたが、私は内心、「またやられた……」と思っていた。

つねに優しい言葉を
欲する義父にヘキエキ

 ここ数年ですっかり涙脆くなった義父は、義母との暮らしの苦労を語るとき、人目も憚らず泣くようになっていた。相手が誰であろうと、あっさり泣いてしまう。そりゃあ、お年寄りですもの、大変ですもの、泣くときもありますよ……と思う方もいるだろう。それは私も理解しているつもりだ。