老人ホームへの入居に際しては、親も子もどこかで心を痛めている。特集『終の住み家の選び方』(全21回)の#11では、21年間1人で母、祖母、弟の3人を介護した経験を持ち、理学療法士として14年間病院に勤務した経験のある介護者メンタルケア協会の橋中今日子代表が、親と子双方のメンタルケアについて解説する。
介護は静かに始まり
準備が足りないまま限界に達する
介護とは急に来るものではなく、むしろ静かに始まります。
例えば1人暮らしの親の様子を見に行くのも、介護の一種です。その頻度が以前は半年に1度だったのに最近は月1回になったとか、親から理由もなく電話がかかってきて、相手をする機会が増えたというだけでも、実は介護の段階が進んでいると考えるべきです。
いずれ高齢者施設に親を入居させなければならないタイミングが来るかもしれない。なのに、準備を先延ばししているうちに限界に達してしまうことが往々にして起こります。
私は21年間、認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟の3人の介護を1人で経験しましたが、祖母の認知症が進み、要支援2から要介護に移った頃、限界が来ました。
母や祖母のショートステイをフル活用し、介護休業も取り、在宅介護の環境を整えたのですが、つい怒鳴ってしまったり、私自身が体調を崩してしまうことが増えていました。
そんなときに、ケアマネジャーから、母の特別養護老人ホームへの入居を提案されました。「まだ大丈夫」と抵抗しましたが、私の職場復帰に関する事情や、3人の介護を並行でしているといった状況をケアマネさんが施設に伝えたところ、1カ月もたたずに入居が決まりました。
母も私の事情を察してすんなりと受け入れてくれたのですが、むしろ私の方が気持ちの整理がつかず、渋々決断したというのが実態です。
その後、私は3カ月くらいまったく動けないほど寝込んでしまいました。母が施設に入り、介護自体は断然楽になっているはずなのに、そのくらい限界だったんです。今は、あれが施設入居のタイミングだったのだと納得しています。
ところがその後、母は不慮の誤飲事故で亡くなってしまいました。毎日泣き腫らして、完全にふ抜けになり、今度は祖母の介護ができなくなった。そこで祖母には、デイサービスなどでお世話になっていたサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に入居してもらうことにしました。