この研究結果は、1992年の『サイエンス』に掲載された。本書の著者・池田譲氏の研究グループは、さらに高度なタコの「鏡像自己認識」や「社会活動」に関する実験を現在進行形で実施しており、本書には、その興味深い成果が詳しく解説されている。
タコ型知的生命体に
人類が襲撃される!?
本書で最も驚かされたのは、タコが「道具」を使うという事実である。2009年に発表された論文によれば、タコがホタテガイやハマグリのような二枚貝の殻を持ち歩いて、いろいろな局面で利用するケースが20例も報告されている。たとえばメジロダコは、人間が捨てた大きなココナッツの殻をソリのようにして持ち歩き、その中に自分の体を入れて隠れることもあるという。
タコが「2足歩行」して「道具」も使える以上、もし未来に人類が弱体化したら、海から上陸して火を使えるほどに進化するかもしれない。そこで思い浮かぶのは、イギリスのSF作家ハーバート・ウェルズの『宇宙戦争』に登場する「火星人」である。
この「タコ型知的生命体」は、脳が異常発達して巨大化する一方、消化器官は退化して、吸盤から動物の血液を直接吸出して栄養を摂取する。今はタコを食べている傲慢な人類が、未来にはタコの子孫に襲われるかもしれない!
想像の域を出ないが、タコの先祖である何者かは貝家を飛び出たのだろう。彼は自由を求めて飛び出した。貝家のアウトサイダーとも言えるだろう。後に彼は、あるいは彼女は、大きな脳を身につけ、立派なレンズの入った眼を備え、吸盤のついた8本の腕というユニークな道具で身を固めた。硬い盾で身を守るのではなく、さりとて強靭な牙で獲物を襲うのではなく、状況を読み取り、わずかな力で最大限の成果をあげる、賢さという武具により生き抜く術を体得した。(241頁)
池田譲(いけだゆずる)1964年生まれ。北海道大学大学院水産学研究科修了。琉球大学理学部教授。著書に『イカの心を探る』(NHK出版)がある。