ロック史上
最強の私生児

 かつて世界には、東西冷戦があった。世紀末はまだ先だったのだが、そこまでたどり着けないような切迫した終末感すらあった。公害も、テロも、極右の跋扈も、限定核戦争の恐怖も、不況も、麻薬禍も、地を覆わんばかりに増殖を重ねていく「新しい」資本主義の伸長も、あった。イギリスではマーガレット・サッチャーが、アメリカではロナルド・レーガンが牙と爪を研いでいた――そんな時代相のなかで「誰に求められることもなく」誕生した、ロック史上最強の私生児こそがパンク・ロックだった。ロックンロールの「本義」の一部が、まるで戯画化されたみたいにして結晶した「スタイル」こそがこれだった。

パンクの顔「セックス・ピストルズ」伝説のボーカリストはなぜ生まれた?元ネタが意外すぎた!『教養としてのパンク・ロック』川崎 大助(著)光文社

 いま一度、あの混沌の時代へと旅をしてみよう。「ノー・フューチャー」と言われてしまったあとの「未来」に住む僕らになら、それができるはずだから。