真なるパンクとは、どこまで行っても「反逆者」の意味をともなうもの、だからだ。他者を「上から踏み潰す」側ではなく、踏まれる側につねにあって、てやんでえと「あらがう」ときの流儀であること――この点にかんしては古今東西、地球上のどこに行っても変わることはない。だからパンクな庶民ならいくらでもいるが、パンクな王様は(もしいるとしたら)語義矛盾でしかない。
パンクな首相なら、いた。2021年12月に退任したドイツ首相のアンゲラ・メルケルだ。
16年にわたる首相職の締めくくりとして、退任式典で彼女が選んだ曲は、ニナ・ハーゲンの74年のナンバー「Du hast den Farbfilm vergessen(邦題「カラーフィルムを忘れたのね」)」だったことが、話題となった。かつてメルケルが共産圏だった東ドイツ在住の青春時代に親しんだのが、この曲だったという。
強制収容所で没したユダヤ人の祖父の血を引くハーゲンも同じ東独出身で、76年に西側に脱出し、パンク・シンガーとして国際的に名を成した。音楽性的にはニューウェイヴのほうが近いと僕は思うが、アーティストとしての姿勢は、間違いなくパンクだ。東独出身のメルケルが、ハーゲンの息吹を吸って、のちに統一ドイツを率いる宰相となった――という文脈もまた、「踏まれても、あらがう」パンク精神と一脈通じるものがある、のかもしれない。