芥川の恋文は読んでいてなかなか面白いですよ。気難しそうなご面相からは想像できない一面がうかがえるんですよね。
2017年に公開された文宛ての別のラブレターには「小鳥のように幸福です」などと書いた一文がありますが、次の言葉を読むと、ひょっとして芥川龍之介ってめちゃくちゃうぶ?と思ってしまう女性もいるんじゃないでしょうか。
無数の長所を具えた女性は
一人もいないのに
相違ない(芥川龍之介『侏儒の言葉』)
この言葉だけが一人歩きをしているので誤解されても仕方ないのですが、これは彼の『侏儒の言葉』の一節で、人間の自己欺瞞、つまり自分へのごまかしについて思索をめぐらせた話の一部分なんです。
「我我の自己欺瞞は一たび恋愛に陥ったが最後、最も完全に行われるのである」と書いて、理性を失わせ恋人のすべてが素晴らしく思えてしまう状態を言い表したものなんですね。
恋愛はチャンスではない、意志だ
心に訴えかける太宰治の言葉
先人の言葉は著書の一部分を抜粋したものも多いので、前後を知らないと違った解釈をしてしまうことがあるんですね。
例えば、太宰治の「人生はチャンスだ。結婚もチャンスだ」という言葉はいろいろな場所で引用されていますが、これは『ヴィヨンの妻・桜桃』に収められた「チャンス」の言葉で、本文はこうです。