芥川龍之介芥川龍之介 Photo:Aflo

芥川龍之介、太宰治、藤沢周平…誰でもその名を知る文豪たちは、恋愛をどのように洞察していたのだろうか。彼らの著作を紐解き、含蓄に富んだ名言の数々を紹介する。※本稿は、近藤勝重『人間通の名言 唸る、励まされる、涙する』(幻冬舎)の一部を抜粋・編集したものです。

文豪たちのさすがの名言
藤沢周平「おめどご、好きだ」

 出色の文体、あるいは文章の名手と評されている藤沢周平氏が、何故「おめどご、好きだ」といった方言に執着したのか、著書『小説の周辺』に収められた「生きていることば」から探ってみます。

 私は標準語がもつ意志伝達の機能と、洗練された響きを認めるのにやぶさかではないが、ただそれだけのことだと思うことがある。標準語は人間の生活を映さない。ことばは生活の上をすべっと通り過ぎていく。

 だからたとえば標準語で、「君を愛している」といっても、それはテレビからもラジオからも聞こえてくるので、ことばはコピーのように衰弱している。しかし方言を話す若者が、押し出すように「おめどご、好きだ」(わが東北弁)といえば、まだかなりの迫力を生むだろう。方言生活ではそう簡単には使わないことばだからだ。(藤沢周平『小説の周辺』)

 言われてみれば確かに……。例えば「君のこと本当に好きなんだ」を大阪弁で言うと、「お前のことほんまに好っきゃねん」。鹿児島あたりだと、「おまんこつほなごて好きでごわす」。いや、これは西郷さんか……。

 いずれにしても、方言には、その土地の歴史や風土、生活がしみ込んだにおいがあります。そのにおいは懐かしさとともに、その人本来の姿を浮かび上がらせます。方言の「迫力」ですね。