人生はチャンスだ。結婚もチャンスだ。恋愛もチャンスだ。としたり顔して教える苦労人が多いけれども、私は、そうでないと思う。私は別段、れいの唯物論的弁証法にこびるわけではないが、少なくとも恋愛は、チャンスでないと思う。私はそれを、意志だと思う。(太宰治「チャンス」)

 否定している言葉を肯定しているように伝えられるのは、作者としては不本意極まりないと思いますが、こういう例は別にして、気に入った言葉があって、その解釈が作者の伝えようとすることと多少違っていても、自分の心をつかんだ大切な言葉に思えたのなら、それはそれで意味のあることだと僕は思います。

男女不平等?女だって得してる…
芥川龍之介の拍子抜けする言い分

 さて、芥川龍之介が「世の中と女」と題して、男女の不平等について面白いことを書いていますので、紹介しておきます。

 今の世の中は、男の作った制度や習慣が支配しているから、男女に依っては非常に不公平な点がある。その不公平を矯正する為には、女自身が世の中の仕事に関与しなければならぬ。唯、不公平と云う意味は、必ずしも、男だけが得をしていると云う意味ではない。いや、どうかすると、私には女の方が得をしている場合が多いように見える。たとえば相撲である。我々は、女の裸体は滅多に見られないけれども、女は、相撲を見にゆきさえすれば、何時でも逞しい男の裸体を見ることが出来る。これは女が得をして男が損をしている場合であると思う。(芥川龍之介「世の中と女」)