やり通すことで「やり抜く力」を鍛えられる

 以上のことを考慮すれば、私がこれまでに示した科学的根拠は、ふたとおりに解釈することができる。私はここまで、課外活動は生徒たちが長期的な目標に向かって、「情熱」と「粘り強さ」を身につけ、育むのに役立つと述べてきた。しかし同時に、課外活動を最後までやり通すことは、「やり抜く力」の強い生徒たちにしかできないと言うこともできる。

 このふたつの解釈は矛盾するものではない。それどころか、両方(鍛錬と選抜)の効果が表れている可能性も十分にある。

 私がもっとも有力だと思う考え方は、「青年期に何らかの活動を最後までやり通すことは、やり抜く力を要するとともに、やり抜く力を鍛えることにもなる」ということだ。

 そう思う理由のひとつは、一般的に、「人は自分の性格に適した状況に引き寄せられるが、その結果、さらにその特徴が強化される」と考えられているからだ。

 この人格形成の理論は、ブレント・ロバーツによって「対応原則」と名付けられた。ロバーツはパーソナリティ心理学の第一人者であり、人の考え方や、感じ方や、行動に持続的な変化をもたらす要因を研究している。

 ブレント・ロバーツがカリフォルニア大学バークレー校の大学院で心理学を専攻していた当時は、人間の性格は幼年期でほぼ固まってしまい、あとは変わらないというのが一般的な見解だった。

 しかしそれから、ロバーツをはじめとするパーソナリティ研究者たちは、何千人もの人びとを対象に数十年にわたる縦断研究を行い、十分なデータを収集した。その結果、人間の性格は、実際には幼年期を過ぎても変化することが明らかになった。

「対応原則」が示唆しているのは、私たちは自分の性格特性に合った状況に引き寄せられるが、そのような状況に身を置くことで、その性格特性がさらに育まれ、強化され、増幅されるということだ。この関係は、好循環と悪循環のどちらにもつながる可能性がある。

 たとえば、ロバーツが行ったある共同研究では、ニュージーランドの数千名の青年たちが、やがて成人して就職するまで追跡調査を行った。その結果、敵愾心の強い青年たちの多くは社会的地位の低い職業に就いており、生活費を稼ぐのにも苦労していた。そうした状況のせいで、さらに敵愾心が強くなり、ますます就職が難しくなっていた。

 それとは対照的に、人付き合いのよい青年たちは、人格形成の好循環を経験していた。好青年たちは社会的地位の高い職業に就き、経済的な安定も手にしていた。そして、そのおかげでますます社交的な性格になっていた。

「やり抜く力」については、「対応原則」の研究はまだ行われていない。

 だが、ここはひとつ考えてみよう。自分でレーズンの箱を開けられず、「こんなのムリだもん!もういいや!」とつぶやいた女の子は、何でもすぐにあきらめる悪循環に陥ってしまうかもしれない。新しいことに手を出してはすぐにやめることの繰り返しでは、好循環に入るチャンスを逃してしまう。

 好循環とは、「もがきながらも努力を続けることが進歩につながり、それによって自信が生まれ、もっと大変なことにも挑戦できるようになる」ことだ。

 では母親が、大変なのは承知のうえで、小さな娘にバレエを習わせた場合はどうだろう?レオタードに着替えてレッスンを受けるのは、娘にとっては面倒で、最初のうちは楽しいとは思えないかもしれない。しかもこのあいだのレッスンでは、「腕の伸ばし方がちがう」と先生に叱られて、ちょっぴりつらかったようだ。

 しかしそんな女の子が、厳しい指導のもとで何度も練習を続けるうちに、ある日のレッスンで、ついにうまくできたときの達成感を味わったとしたら?小さな勝利が励みになって、ほかにも難しいことを練習してみようと思うのではないだろうか。大変なことにも果敢に挑戦するようになるのではないだろうか。

(本連載は書籍『やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』より抜粋しています)