そのやり取りから、1年という期限はこのときに出たのかもしれない。1年やってものにならなかったら会社に戻るという念書まで交わしている。まさに背水の陣の賭けだが、1年あればという確信があったのだろうか。

不釣り合いな妻を幸せにすべく
売れない純文学より『戦艦武蔵』

「父は片方の肺がない上に、大学は中退で、言ってみれば1文無しじゃないですか。そういう身で、社長令嬢を妻にしたわけです。相当のプレッシャーがあったでしょう。その分、なんとかしてという気持ちが強かったと思いますよ」

 すぐれた小説を書き、それで一家を養うだけの収入を得る。どちらもやってのけた吉村を改めて見事な人だと思う。その大もとを辿れば、ベタ惚れで結婚した女を、どうにかして幸せにしなければという心理的な重圧があったのだ。

 それがすべての原動力になっていたのかもしれない。