アルムナイ・リレーションシップを構築する企業が増加

 その一方で、非日系企業、特に欧米系企業などに目を向けると、多くの企業がアルムナイと公式にリレーションシップ構築をしていて、つながりを維持していました。企業とアルムナイがビジネスで協業したり、アルムナイが前職のクライアントになったり、お互いに定期的に情報交換をしたり、Boomerang Hire(ブーメランのように戻ってくるという意味)と呼ばれる再入社をしたりと、「退職=損失」とはかけ離れた退職のあり方を目にしました。

 シンガポールでそのような関係を何度も目にすることでアルムナイ・リレーションシップの価値を実感したことから、日本でもそのような考え方や関係を普及させたいと考えるようになり、2017年に帰国して、株式会社ハッカズークを設立しました。

 いまや、アルムナイという言葉の認知は高まり、アルムナイ・リレーションシップを構築する企業は急速に増加しています。テレビや新聞、雑誌やウェブメディアなどで取り上げていただく機会も多く、仕事でお会いする方から「最近、アルムナイという言葉をよく耳にする」とおっしゃっていただくことも増えてきました。そのような中で今回の書籍出版のお話をいただいた時、私たちがこの書籍を執筆する意義について考えました。

 この数年でアルムナイ・リレーションシップという考えを取り巻く環境は大きく変化しました。全くと言っていいほど認知をされていなかった2017年から2020年の間は少しずつ認知が広がり、2021年から2022年はその上昇角度が急になり、2023年から2024年にかけてはアルムナイに関する取り組みを始める企業の数や、それらの取り組みがメディアで取り上げられる機会が増加したことで、社会的な認知も急激に高まりました。この現状は、これから日本でアルムナイ・リレーションシップが定着していく過程において、どのフェーズに該当するのでしょうか。企業と個人の関係性の変化は「テクノロジー」ではありませんが、ガートナー社が提唱する新テクノロジーのハイプ・サイクルに当てはめてみましょう。まだまだピーク期に届いていないことは明白ですが、黎明期にいるのでしょうか。それとも、過度な期待のピーク期に向かって上昇しているところでしょうか。いずれにしても、この先どこかでピークを経て、幻滅期という下り坂を迎え、その後、回復期で再上昇してから安定期に入るというのが、一般的なサイクルと言われています。