“スーパー利己的”な新入社員が、アルムナイとうまく付き合うための方法

集団生活を営んだり、企業・団体の中で働いたりするときに、自分の利益を優先する「利己的な姿勢」は軋轢や諍いを生むことが多い。そのため、「誰かのため」という利他的な姿勢が美徳とされ、仕事においては、「組織のため、会社のため」という滅私奉公のスタイルが昭和の時代は重んじられた。しかし、時代は変わり、「スーパー利己的になって、会社での自分の目的を達成してください!」と新入社員にメッセージする経営者もいる。令和のビジネス界に「アルムナイ」という言葉を広め、浸透させた鈴木仁志さん(株式会社ハッカズーク 代表取締役CEO)だ。“スーパー利己的”とは、どういうことか? 「HRオンライン」で連載執筆中の鈴木さんのオフィスを訪ね、その真意を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

“スーパー利己的”になって、目的を達成していく

 企業の入社予定者(内定者)向けメディア「フレッシャーズ・コース2025」(*1)の 「“キャリア”って何だろう?」コーナーを執筆した鈴木仁志さん――その冒頭は次のような文章だ。

“就活中に、面接で「あなたは利己的なタイプですか? 利他的なタイプですか?」と聞かれたらどのように答えたでしょうか──「利他的」と答えたほうが良いと考える人がおそらく多いでしょう。私も学生時代は「利他的」と答えていたかもしれません。その私が社会に出て20年近く経ち、現在では私が経営する会社に入社する社員に対して「スーパー利己的になって、自分がこの会社にいる目的を達成してください」と伝えています”

 HR業界で長いキャリアを持つ鈴木さんは、組織・事業開発、人材登用・育成のエキスパートであり、日本で「アルムナイ」という言葉を定着させた当人としても知られている。「利他的」と「利己的」――他者とのリレーションシップで行われる仕事は、とかく「利他的」であることが望ましいと思いがちだが、「スーパー利己的になって……」とメッセージする、鈴木さんの真意は何か?

*1 「フレッシャーズ・コース2025」(ダイヤモンド社)は、全7巻ワンセットの新卒内定者フォローツール。鈴木仁志さんの執筆は第6巻。

鈴木 僕は、部下や会社の仲間たちに、「会社のために……」「鈴木さんのために……」と言われるのがすごく苦手なんです。“誰かのために仕事をする”というモチベーションは、一時(いっとき)のものとしてはありかもしれませんが、決して永続的なものではないと思います。“スーパー利己的”な考え方による、「自分は○○を成し遂げたい!」「この会社で□□として成功したい!」というモチベーションこそが仕事におけるリアルでサステナブルな原動力になるはずです。「お金をたくさん稼ぎたい!」でもいい。自分のホンネや“欲”を偽らず、それらを意識することが大切だと、僕は思っています。

鈴木仁志

鈴木仁志 Hitoshi SUZUKI

株式会社ハッカズーク 代表取締役CEO
アルムナイ研究所研究員

アルパイン株式会社を経て、T&Gグループで法人向け営業部長・グアム現地法人のゼネラルマネージャーを歴任し、帰国後は人事・採用コンサルティング・アウトソーシング大手のレジェンダに入社。海外事業立ち上げ責任者としてシンガポール法人設立、中国オフショア拠点設立、フィリピン開発拠点開拓等に従事。2017年、株式会社ハッカズークを設立、アルムナイとの関係を築くプラットフォーム『Official-Alumni.com』や退職で終わらない“企業と個人の新しい関係”を考えるメディア『アルムナビ』を運営。2024年10月に、著書『アルムナイ 雇用を超えたつながりが生み出す新たな価値』(鈴木仁志/濱田麻里 著、株式会社日本能率協会マネジメントセンター刊)が発売される。

 

「フレッシャーズ・コース2025」には、「新卒3年目までの先輩たちのホンネ調査!」という、若手ビジネスパーソンの就労意識を明らかにしたページがある。そのなかに、「あなたは何のために働いていますか?」という問いがあり、回答の1位は「お金を得るため」、2位は「好きなことや興味のあることを追求するため」になっている。一方、「社会や人の役に立つため」は6位――利他よりも、利己。それが、昨今の新入社員たちの偽りのないホンネであり、“欲”なのだろう。

鈴木 仕事において、日本人は、自分の“欲”を他者に伝えたり、遮二無二に追求したりすることを美徳としない……むしろ、悪と考える傾向があります。ホンネでは、「お金のため」と思っていても、「会社のため」と公言することもあるでしょう。肝心なのは、自分が本当に何を望んでいるのかを考え続けることです。そうすると、それを得るために、所属している会社や組織で何をしていけばよいのかがわかり、利己的利他として必要なことが認識できます。自分の“欲”を知ることで働くモチベーションが高まれば、仕事の結果を他責にすることも少なくなるでしょう。