
「戦記」であることが前提となっているガンダム。当然宇宙における軍事技術も多数登場する。宇宙空間での戦闘で使われるさまざまな兵器は、実は全くの空想ではなく、現在ではそれに近いものが実用化されようとしている技術もあるという。特集『ガンダム・ジークアクスの舞台裏』(全13回予定)の#11では、ガンダム世界と現実の軍事技術について、宇宙ライター、大貫剛氏が解説する。(フリーライター 大貫 剛)
長らくSFの域を出なかったビーム兵器は
今、現実世界で「コスト」を理由に実用化が進む
2025年前半、いわゆる「ファーストガンダムリアタイ世代のガノタ(ガンダムオタク)」を震撼させたのが、新作アニメ「機動戦士ガンダムGQuuuuuuX」(以下、ジークアクス)だ。1979年版のガンダムと直接つながるストーリーでありながら、現代の宇宙知識やアニメーション技術で描き出された世界観に、多くのガノタたちが魅了された。
前編(本特集#9)ではガンダム世界と比較しながら、現実の宇宙開発の進歩をひもといてみた。一方で、ガンダム世界のもう一つの大きな場面設定は戦争だ。残念ながら半世紀近くを経ても現実の戦争はなくならず、現在も軍事技術の進歩は続いている。
そこで後編では「ファーストガンダムの79年」と「ジークアクスの25年」という視点から、ガンダム世界と現実の軍事技術、そして宇宙戦争について解説する。
【ガンダム世界】
ビーム兵器は、弾丸や砲弾を使わず、レーザーや素粒子などのエネルギーを光速で直接照射する強力な武器として描かれている。艦艇の主砲としてだけでなく、小型化されてモビルスーツに搭載され、さらには巨大なコロニーレーザーも開発されている。
【1979→2025】
弾丸やミサイルよりも強力な兵器として、ビーム兵器は長らくSFの域を出ない存在だった。現実世界では、レーザーやマイクロ波などのエネルギーを浴びせる兵器を、エネルギー兵器と呼ぶのが一般的だ。
80年代、米国の戦略防衛構想(SDI)では、弾道ミサイルを迎撃するエネルギー兵器が研究された。宇宙空間を飛行中の弾道ミサイルを、人工衛星が発射するレーザーなどで遠距離から破壊する構想だったが、当時の技術では実現性は乏しかった。むしろSF的な未来兵器を米国が開発できると宣伝することで、ソ連へ政治的圧力をかけ冷戦終結に導くことが主目的だったといえるだろう。
【将来展望】
近年では、全く異なる理由からエネルギー兵器が注目を集めている。例えば、低コストなドローンをミサイルや機関砲で迎撃しようとすると、迎撃ミサイルや機関砲弾のコストが高くなり、費用的に消耗を強いられてしまう。一方、エネルギー兵器は電力供給だけで発射可能であるため、発射装置は高価だが連射の費用は低い。レーザーやマイクロ波を照射してドローンのセンサーや電子回路を無力化し墜落させる兵器は、すでに試験運用の段階に入っている。
また、エネルギー兵器ではないが未来的な兵器として知られているレールガンも開発が進んでいる。レールガンは火薬ではなく電磁気力で砲弾を加速するもので、火薬を使う砲の倍以上の速度で砲弾を撃ち出すことができる。艦艇に搭載して、従来の巡航ミサイルより高速な超音速滑空弾や超音速巡航ミサイルの迎撃に用いることが期待されている。
ガンダム世界の中でも、とりわけフィクション性が高いとみられる軍事技術。実はビーム兵器よりもさらに現実にはあり得なそうな「サイコミュ」(脳波を通じて周囲の情報を感じ取り、それを基に兵器を操作するための技術)、「ミノフスキー粒子」(電磁波や赤外線を遮断する性質を持ち、レーダーや無線通信を妨害する粒子)などについても、ある意味で近いものが実用化に向けて動いているという。実は日本の兵器開発も無関係ではない。次ページで詳しく見ていこう。