「人的資本経営」のキーワードとして「アルムナイ」が目立つようになった。企業が自社の退職者である「アルムナイ」とどのような関係を築いていくかは、人材の流動性が高まっている、この時代でことさら重要だ。さまざまなメディアからの出演依頼が続く、「アルムナイ」についての第一人者として知られる鈴木仁志さん(株式会社ハッカズーク代表取締役CEO兼アルムナイ研究所研究員)。その、鈴木さんによる、「HRオンライン」連載「アルムナイを考える」の第8回をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)
>>連載第1回 「退職したら関係ない!」はあり得ない――適切な「辞められ方」「辞め方」を考える
>>連載第2回 誰もが明日から実践できる「辞め方改革」が、あなたと企業を幸せにする理由
>>連載第3回 「辞め方」と「辞められ方」――プロサッカークラブに見る“アルムナイ”の大切さ
>>連載第4回 “出戻り社員”が、会社と本人を幸せにする理由と、お互いが成功する方法
>>連載第5回 内定辞退者や早期退職者に対する“負の感情”が減る「辞め方改革」とは?
>>連載第6回 「急がば回れ」の姿勢が、“アルムナイ採用”をしっかり成功させていく
>>連載第7回 「アルムナイ」の広がりに伴う“さまざまな声”について、私がいま思うこと
アルムナイに関する書籍が市場から求められた
筆者が経営をする株式会社ハッカズークは、2017年からアルムナイに関する事業を営んでいます。会社を設立したばかりの頃、共同創業者とともにいくつかの目標を立てました。多くは事業成長に直接関係するものでしたが、それ以外に市場形成に関係するものもいくつかありました。そのうちの一つが「アルムナイに関する書籍が出版される」というものでした。
ここで大切にしたのが、「アルムナイに関する書籍を自社が執筆して出版する」に拘(こだわ)らなかったことです。事業成長に直結する目標として置くのであれば自社が執筆することが重要になったでしょうが、アルムナイに関する書籍の出版が市場から求められている状態を目標としました。仮に、結果的に自社が執筆しなかったとしても、書籍の出版が求められるくらいに「アルムナイ」が社会から認知されているのであれば、「アルムナイとの関係構築で、退職で終わらない企業と個人の新しい関係を実現して、退職による損失を無くす」という当社のビジョンに近づいている証拠になると考えたからです。
それから7年の月日を経た2024年、当連載「アルムナイを考える」の記事などをご覧いただいた出版社の方からお声がけいただき、ついにその目標が実現されることになりました。
出版社:株式会社日本能率協会マネジメントセンター
著者:株式会社ハッカズーク/鈴木仁志、濱田麻里
筆者がアルムナイ・リレーションシップ(企業とアルムナイの関係)の重要性に強い関心を持ったのは、前職時代にシンガポールで仕事をしていた2015年頃でした。在シンガポールの日系企業に対して、採用や人事領域で幅広くサービスを提供している中で、多くの日系企業から「シンガポールでは退職率が高いから、人に投資をしてもすぐに退職してしまうのでもう投資をしたくない」という声を聞きました。そうは言っても、本当に人への投資を止める企業はなく、多くの企業が「退職=損失」と捉えながら人への投資を続けていました。