現在はまだ、黎明期に近いフェーズの「アルムナイ」
アルムナイ・リレーションシップに限らず、社会の既成概念を大きく変えるような取り組みには、社会全体でのモメンタム、すなわち、勢いが必要なため、過度な期待のピーク期や幻滅期を全く経ずに安定期に入ることは難しいことなのかもしれません。それでも、本連載の前回記事「『アルムナイ』の広がりに伴う“さまざまな声”について、私がいま思うこと」でも触れたとおり、企業やアルムナイのどちらかだけに偏った関係や、企業や一部のアルムナイが排他的に扱われることなどによって、過度なピーク期や幻滅期のアップダウンが発生したり、いつまでも安定期を迎えなかったりすることは誰もが望んでいないことでしょう。
これからもアルムナイ・リレーションシップに対する期待が変化するのに合わせて、さまざまな思想やスタンスの方々がアルムナイ・リレーションシップの構築を始めたり、アルムナイに関するサービスを提供したり、批評をしたりするでしょう。そして、このようにまだ黎明期に近いフェーズだからこそ、異なる思想を持つ人たちが、それぞれの立場から思想や目指す姿を発信することで、過度なピーク期や幻滅期の凹凸を最小限にし、日本でアルムナイ・リレーションシップが文化や社会のインフラとして根付くための一助になると考えました。それこそが私たちが本書を執筆した理由です。
本書でも説明をしていますが、私たちはアルムナイ・ネットワークやコミュニティの構築を目的としていません。それらは重要なインフラではありますが、目的はあくまでも、企業、社員、アルムナイにとってWin-Winで持続可能なアルムナイ・リレーションシップを実現することです。そのため、本書はネットワークやコミュニティを活性化させるためのノウハウ本ではありません。歴史的、そして社会的背景に触れた上でアルムナイ・リレーションシップの重要性について書いたり、企業とアルムナイが良い関係を築くために必要な心構えや大枠のステップを説明しています。その上で、具体的な施策や企業の取り組み事例も一部紹介しています。