米軍の元軍人がトランプに問う「本物の暴力を、知っているのか?」写真はイメージです Photo:PIXTA

米陸軍の大佐として、イスラエルに派遣されたブレント・カミングズ。彼は、エルサレムでパレスチナ人、ユダヤ人と個人的に知り合い、双方が恐怖に捕らわれていることを知る。ユダヤ人女性のリナがブレントに語ったのは、日常を恐怖で支配されているイスラエル人としての生活だった。トランプが煽る暴力と憎悪の連鎖の先にあるものとは。※本稿は、デイヴィッド・フィンケル著、古屋美登里訳『アメリカの悪夢』(亜紀書房)の一部を抜粋・編集したものです。

パレスチナ人の無差別テロに
さらされた恐怖がしみついている

 それが起きたのは日の出の直後のことだった、とリナはブレントに話した。家の近くを車で通っていると、壁の向こう側からいきなり石が飛んできて車の窓ガラスに当たった。

 パレスチナ人が石を投げた、とは言わなかった。言わずもがなだった。

 夫と娘ふたりと暮らしているリナの家は、エルサレムから24キロほど離れた郊外にあり、高速道路を隔てた向こう側にパレスチナ人の村があった。その村は壁の向こう側にあり、彼女の家は丘の上に建っていたので村の様子を見ることができたが、一度もその村へ行ったことがなかった。

 彼女は、高い防護フェンスに囲まれたイスラエル人地区の、監視カメラのついている鍵のかかった門を通って家のなかに入った。家のなかは現代的で、ロケット弾が落ちてきた場合に備えた堅牢な部屋があり、鋼鉄のドア、強化コンクリート壁、爆風に耐えられる窓がついていた。

「敵意が高まっている」彼女はイスラエル人としての生活がどんなものか語った。彼女の話し方が恨みがましく聞こえたとしたら、その原因は、パレスチナ人によって通りで無差別にナイフで刺されたり、自爆テロでバスやレストランを攻撃されたりした時代にまで遡る。