トランプがヒラリー・クリントンのことを「不正まみれのヒラリー」と言ったことから、群衆が「あの女を刑務所にぶちこめ!」と口を揃えて叫ぶようになった。そして民衆がいつまでもそう叫んでいると、トランプは両手を指揮者のように振って、彼らの勢いに火を注いだ。「あんたたちは偉大な人たちだ。偉大な人たちなんだ」とトランプは言った。
ブレントは不思議に思っていた。トランプは自分が煽っていることを知っているのだろうか。それが招いているのが暴力だとわかっているのだろうか。人々が唱えているのがなにかわかっているのか。暴力についてどんなことを知っているのか。レスリングの試合とはわけが違う。本物の暴力だ。個人だけではなく国の精神をすっかり変えてしまうような類いの暴力を、果たしてわかっているのだろうか。
イスラエルでの滞在が長くなるにしたがって、トランプの動機を疑問に思うようになった。疑いなく、暴力というものを理解しているアメリカ人はいる。とりわけ長いあいだ疎外され続け、差別されてきた人たちはそうだろう。しかし大半のアメリカ人はどうか。集会でトランプの暴言に笑ったり、痛烈な皮肉に喝采したり、無礼な態度にガッツポーズをしたり、煽るような言葉に本能的に反応したりしていた支持者たちはどうなのだろう。