井村俊哉(個人投資家)Photo by Yasutaka Nagayoshi

2022年に地銀の大株主リストに名を連ねて注目を集めたのが、元手100万円をわずか6年半で1億円に増やし、23年末に通算獲得利益が85億円に達した個人投資家の井村俊哉氏だ。同氏は既に地銀株を全て売却しているが、その背景には投資先の地銀に対する深い失望があった。井村氏が「憤りを感じた」と語る地銀の行為や、経営陣との間で交わされたやりとり、金融庁へ制度改革を訴えるに至った真意について、ロングインタビュー・前編をお届けする。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

地銀株は市場の認識と実態が乖離
銀行間で特徴が大きく異なる

――2022年に、地方銀行の大株主リストに入ったことで話題になりました。なぜ地銀株に注目したのでしょうか。

 前提として、私は現在、地銀の株を保有しているわけではありません。売却に至る経緯は後で説明しますが、自らのポジションのために語っているわけではないことを先にお伝えしておきます。

 私の投資は、本源的な価値に対して極めて割安の状態にある株を徹底的に調べ、価値が顕在化するカタリスト(相場の変動の端緒となるイベントや材料のこと)が見えたタイミングに集中投資する手法です。この投資スタイルで地銀株に注目した理由はいくつかあります。

 日本は人口減少が進み、地方から人口が減っていく。地銀に投資しても未来はないとマーケットは考えていたので、銀行業のPBR(株価純資産倍率)は業種別で比較すると最も低い評価になっていました。東証に上場する全銘柄のPBRをランキングすると、下位20位中なんと15銘柄が地銀という、要するに誰からも期待されていない状態でした。

 一方、世界的には金融政策が正常化していくという大きな潮流があり、世界で唯一マイナス金利を続けていた日本銀行においても例外ではない。金利の上昇は、地銀の利ざやを改善する大きな変化になると考え、割安に放置されている株価が上昇するきっかけになると目を付けていました。

 地銀を分析していて驚いたのは、地銀の貸出金の残高が増え続けていたことです。地方は人口減少が進み、ネット専業銀行が参入しているにもかかわらず、着実に融資を積み上げていました。

 貸出金による収益は、企業に融資した残高に貸出金利を掛けたものです。積み上がった残高に対して収益を得るストックビジネスと捉えると、PER(株価収益率)で見ても、マーケットの評価ほど割り引かれる事業ではないのではないかと思いました。金利正常化というマクロ環境の追い風もあるので、貸出残高が仮に横ばいでも金利が上がれば売り上げが伸びます。ちょうど総資金利ざやが底打ち反転したタイミングというのもあり、ミクロとマクロの両面から魅力を感じました。

――上場している地銀・金融グループは70社以上あります。どのような条件で1社に絞り込みましたか。

次ページでは、井村氏が数ある地銀の中で1社に絞り込んだ方法を明かす。決算データの徹底分析の末にほれ込んだ地銀株について、井村氏は最後まで「必ずしも売却したいわけではなかった」と話す。それでも全株売却を決断せざるを得なかった背景には何があったのか。金融庁に制度改革を訴えるまでの詳細な経緯を激白する。