2023年度に発表された小中学校における不登校者数は過去最多の29万9048人、小中高校などで判明したいじめ件数も過去最多の68万1948件になっています。不登校は個人の問題ではなく社会問題です。本連載では、20年以上にわたり、学校の外から教育支援を続け、コロナ禍以降はメタバースを活用した不登校支援も注目される認定NPO法人「カタリバ」の代表理事、今村久美氏の初著書「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から、不登校を理解し、子どもたちに伴走するためのヒントを、ピックアップしてご紹介していきます。「不登校」という事象について考えるときに、本人へのケアという個人に着目した視点と、教育環境との相性や教育制度など、個人を苦しめている社会の側に視点をおいた考え方など、幾つかの視点があります。ここでは個人に着目した考え方の一つを本書から紹介します。

【子どもの不登校】不登校の子のきょうだいも「僕も行きたくない」と言い出すのを防ぐには?Photo: Adobe Stock

価値観をアップデートできていない人も多い

 不登校の子のきょうだいも、学校に行きたくないと言い出し、きょうだい2人とも不登校になってしまうというケースもよく耳にします。

 不登校になった小学校1年生のNちゃんには、2つ年上のお姉ちゃんがいます。ある時期から、お姉ちゃんが「Nちゃんだけ学校に行かなくていいなんて、ずるい! 私だって行かなくていいなら行かないよ!」と駄々をこねるようになり、ご両親はすっかり困ってしまいました。
 よくよく話を聞いてみると、お姉ちゃんは、ご両親の関心がNちゃんに集中してしまっていることで、寂しい気持ちを抱えていたことが分かったそうです。
 これは典型的な「自分だってもっとかまってほしい」というアラートでしょう。

 こうしたケースは、兄弟姉妹の誰かが重い病気で入院し、両親の愛情や労力の大半がその子に注がれてしまった時にもよく起こりがちです。

 こんな時は、学校に通っているほうの子と2人だけで出かける時間を定期的にとって、「お母さんは、あなたのことがとても大事なんだよ」とまっすぐに伝えてあげると、気持ちが満たされるのではないかと思います。

“最上位目標”は何か、考えを整理する

 中学1年生のOくんは、学校に行けなくなり、オンライン上の居場所で過ごすようになりました。

 それに対して1つ上のお兄ちゃんが「学校に行かなくていいなんて、ラクでいいよな。そんなの不公平だよ」と言い出しました。

 もともとお母さんは、お兄ちゃんには「学校に頑張って行きなさい」、Oくんには「無理して行かなくてもいいよ」と言葉を使い分けながらも、どうしたらいいか悩んでいらっしゃったそうですが、それが結果的に、お子さんの迷いにつながりました。

 大切なのは、どんなお子さんにとっても「学校に行くか行かないか」自体が本質的な問題なのでないということ。「自立を目指して学び続けられる環境がある」ことが重要だということです。手段ではなく、“最上位目標”が大切です。

 とはいえ、一人ひとり、現在地が違うわけなので、言葉がけが違うことは悪いことではありません。とても難しいですよね。

 まずお母さんは、オンライン上の居場所でOくんがどのように過ごしているのかお兄ちゃんに見せました。

 その上で、「お母さんは、みんなが幸せに生きていくことが大切だと思ってる。学校は楽しい場所であるべきだよね。だけど学校は今、Oくんにとってとってもつらい場所になっているの。2人にとって、行きたい場所になるといいね」と、メッセージをひとつにして、お兄ちゃんに話したそうです。

 お兄ちゃんは「Oにとっての学校はここなんだね」と納得して、それ以来、不満を口にしなくなったと言います。

*本記事は、「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から抜粋・編集したものです。