選挙対策で党内結束優先
自己否定という判断は正しいか?

 石破氏は、なぜ豹変したのか?

 これまでの主張を掲げていては選挙に勝てないと判断したからだろう。なぜそう判断したのか?

 第1に、政権発足直後に株価が下落した。マーケットは石破氏が語っていた利上げ支持など、金融や財政の正常化を図ろうという政策に”No”を突きつけたのだ。

 第2に、総選挙のためには党内を固める必要があると考えられた。党内で意見が分裂していては選挙に勝てない。総選挙で勝つためには主義、主張などを言っていられない。とにかく党内の統一を見せることが必要なのが現実の政治なのだ、と考えられた。

 しかし、豹変するだけで選挙に勝てるのだろうか? 石破氏の方向転換は総選挙への正しい戦術だったのだろうか?

 私は、そうではないと考える。

 自民党の支持層の投票行動を振り返ると、自民党の基本的な理念には賛成するものの、自民党政治に不満や不信を強めた際に、改革を望んで野党に投票することがしばしばあった。今回は、その人たちが、長く党内では非主流だった石破氏の政権になったことで、投票先を自民党にする可能性があるからだ。

 しかし、石破氏が方向転換すれば、そうした票を取り逃すことになる。

「包括政党」としての自民党
石破氏は党内の“革新勢力”

 民主主義国では、おおざっぱにいえば「保守政党」と「革新政党」が対立する構造になっている。

 アメリカは共和党が保守で民主党が革新。イギリスは保守党が保守で労働党が革新。フランスでは保守政党は共和党で、左派側の政党は社会党。そしてドイツではキリスト教民主同盟(CDU)、キリスト教社会同盟が保守政党で、ドイツ社会民主党(SPD)が革新政党といった具合だ。

 保守と革新を分かつ基本は、資本家と労働者の立場の対立だ。前者の所得は高く、後者の所得は低い場合が多い。したがって高所得者対低所得者の区別ともほぼ一致する。つまり資産の保有者である高所得者と、低所得の労働者の区別だ。

 また経済政策手段では、保守政党はマーケット・メカニズムを重視し、政府の介入や補助はできるだけ少ない方が望ましいと考える。それに対して革新政党は、政府の介入や補助政策が望ましいとする場合が多い。

 日本の場合も、「自民党と公明党が保守で、それ以外の政党が革新」という区別が一応されている。しかし、そうした基準では分類しきれないところが多々ある。

 日本では、共産党が上記の意味における革新政党であることに間違いはないが、それ以外の政党は、政治的イデオロギーの違いをそのまま前面に押し出すことは少なく、キャッチオールパーティ(包括政党)としての性格を持っている。つまり、自民党が資本家を代表し野党が労働者の立場を代弁していると明確に分かれているわけでは、必ずしもない。

 自民党が万年政権党であるのに対して、それ以外の政権が万年野党だという違いのほうが分かりやすい(ただし、1993~1994年の非自民・非共産8党派連立政権、2009~12年の民主党・社会民主党・国民新党連立政権党政権を除く)。

 特に自民党は包括政党の性格が強く、支持層、また政策も全ての階級を対象としている。とりわけ重要なのは、従来型の産業や自営業、そして衰退産業を代表している面もあることだ。

 実際、日本では、農業などの衰退産業を保護することが自民党の重要な政策と考えられてきた。

 その典型が農業だ。高度成長に取り残されていく農業を強力な支持基盤とし、さまざまな補助政策を導入した。また自営業者についても類似のことが言える。つまりこの面では、自民党は資本家の政党というよりは、むしろ従来型産業の利害を守るという性格を強く持っていたのだ。