日本の製造業の肝だった金型メーカーが中国の大手EV(電気自動車)メーカーBYDに買収され、同社の躍進のきっかけになったことは広く知られている。だが、日本の自動車部品メーカーが中国企業に買収されたのは、金型にとどまらない。特集『自動車・サプライヤー SOS』の#5では、EVの乗り心地を左右する「防振ゴム」など隠れたコア技術が流出している問題を解明する。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
金型など一見、地味なアナログ技術が
中国製EVの性能向上に使われた
中国の電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)が、日系自動車メーカーの「ドル箱」だったタイやインドネシア、ベトナムなどの市場に攻勢を掛けている。
現在、トヨタ自動車やホンダ、日産自動車は、8月の中国での販売実績が前年同月より1~4割減るなど苦戦しているが、東南アジアにおけるシェアまでBYDをはじめとした中国EVメーカーに奪われれば、より深刻な事態となる。
実は、中国EVメーカーが競争力を高めることに、日系自動車部品メーカーは大いに貢献してきた。
その典型が、BYDが2010年に買収した金型メーカーのオギハラの一部、同社館林工場(現TATEBAYASHI MOULDING)だ。買収当時、自動車の車体を製造するのに欠かせない金型のメーカーが中国資本になることに、「技術が流出してしまう」という懸念の声もあった。だが、金型メーカーが自立してやっていけるだけの十分な対価を支払う自動車メーカーは少なかった。
当時は現在ほど自動車業界の「買いたたき」が社会問題になっておらず、日本の製造業が中国メーカーに敗れることへの危機感も強くなかった。結果的に、金型のような“お宝技術”を国内に保持することはできなかった。
こうした技術流出は金型に限らず、多数の自動車部品で起きている。
中国などへの技術の流出に細心の注意を払わなければならないのは、半導体や量子技術といった経済安全保障推進法で守られるテクノロジーだけではない。一見枯れたアナログ技術を持つメーカーが買収されることが、国力の衰退につながる事態もあり得るのだ。
次ページでは、自動車業界のエンジニアたちから「国家的損失」と悔やむ声が上がるブリヂストンの防振ゴム事業の売却など、技術流出の実態を明らかにする。