子を思う親の願いが
治療法を見つけ出した
1983年の暮れになっても、孫の病状はいっこうによくなる気配を見せず、一進一退を繰り返していた。
病室の孫は寒々とした窓におのれの運命を凝視した。
このままじっと死を待つか。それとも新しい方法に賭けるか。
新しい春を迎えることができるのか。たとえ、春を迎えたとしても、こんな病身で、次から次に襲いかかってくる困難にどこまで立ち向かえるのか。暗澹たる思いであった。
孫は肝臓の専門医が発表した論文を読み漁って、自分の病気を治してくれそうな医者や治療法を必死で探していた。
だが、孫を救ったのは思いがけない人物であった。
子を思う親の願いが天に通じたのか。
孫の父、三憲は、肝炎の画期的な治療法を紹介する新聞記事を眼にした。
虎の門病院の熊田博光という医師が肝臓学会で新しい治療方法を発表して、注目を浴びている。これまでにないまったく新しい治療方法。「ステロイド離脱療法」という。三憲がその有効性をどれだけ理解していたかはわからない。だが、すぐさま息子に電話をかけた。
「熊田先生に会いにいったらどうだ」
孫は父の気持ちが涙の出るほど嬉しかった。
「可能性に賭けてみるべきじゃないのか」
三憲の言葉には説得力があった。
孫は父の言葉に従うことにした。