そこでまず、短期間にステロイドを投与して免疫力を抑える。その後、投与をやめて、急性肝炎を引き起こさせて、いっきに治してしまう。いわば賭けのような治療方法である。

 慢性肝炎を急性にして治す。まさに発想の転換だった。

熊田の斬新な治療法は
学会で袋叩きにされた

 従来の方法は、ともかくステロイド剤をずっと使って、少しでも悪くならないようにする治療だった。それが世界の主流だった。

 だが、熊田はあえて新しい方法に挑戦した。それが劇的な効果を上げた。

 孫は熊田の説明をじっと聞いていた。

(この医師は、たいへんな情熱を持って取り組んできている)

 孫は熊田の治療方法にあらためて深い関心を持った。

 1981年、熊田は慢性肝炎の斬新な治療方法である「ステロイド離脱療法」を学会で発表した。

 だが、受け入れられるどころか、袋叩きにあった。

 一時的に薬を抑制して、患部を悪化させる――そんなものは治療ではないという意見が圧倒的だったのである。

 ごく一部の医師が関心を示したが、日本の肝臓学会ではほとんど否定された。

 大論争を巻き起こしていたその治療方法を新聞が取り上げ、父三憲が目にした。

 ただ、孫は病院を変わることに抵抗があった。入院中の病院でも必死になって治療に当たってくれている。命を預けている。患者と医者は信頼関係で成り立つ。しかも、医者を替えたからといって治る保証はどこにもない。