日本において時価総額で圧倒的1位の最強企業、トヨタ。2024年3月期の決算では、日本企業で史上初となる営業利益5兆円を突破したことが話題となった。その理由として、円安による利益の押し上げが挙げられることもしばしばだが、決算資料を読むと、主因はほかにあることがわかる。トヨタの「2つの努力」とは何か?佐伯良隆『100分でわかる! 決算書「分析」超入門 2025』(朝日新聞出版)より一部抜粋・編集してお届けします。
円安効果よりもすごい!
トヨタの「努力」のヒミツ
24年3月期決算で日本企業初の営業利益5.4兆円を達成したトヨタ自動車。業界2位のホンダは1.4兆円、3位の日産は5687億円であり、独壇場の様相を呈しています。巨益を生んだ要因は何か、決算書を紐解いてみましょう。
はじめに損益計算書をみていきます。売上高に相当する営業収益は、当期は41.6兆円で前期から21.2%増。同社の「業績ハイライト」によると、世界販売台数は944万台で前期から7.0%増加(→下グラフ)。約2割を占める国内が3.7%減少しているのに対し、約8割を占める海外が10.3%増と好調であることが、ひとつの要因となっています。
一方で、前期から売上原価率は4.1ポイント、販管費率は0.8ポイント減少。原価率の低減幅には驚かされます。その結果、営業利益は5.4兆円、営業利益率は12.9%と、過去10年で最高水準を記録。
また、最終利益は4.9兆円と、こちらも前期の約2倍にまで増加しました。動きのムダ(費用)を減らし、運動効率(利益率)を大きく上昇させたことが読み取れます。
なぜトヨタの利益は、急増したのでしょうか。
同社の決算資料には、営業利益の増減要因が示されています。
これによると、まず「為替変動の影響」により、前期から6850億円のプラスがありました。これは前期に比べて円安ドル高が進んだことで生じた利益(為替差益)です。しかし巨額ではあるものの、利益増の主因ではありません。
最も大きいのは、「営業面の努力」で、前期から2兆円も上乗せ。内訳をみると、まず販売台数の増加と車種構成の改善で9800億円のプラスとなっています。当期は、世界的な電気自動車(EV)の停滞から、トヨタが主力とするハイブリッド車(HEV)の売れ行きが好調で、販売台数は前期比32.1%増加。全体の販売台数に占める電動車の比率は29.6%から37.4%に上昇しました。
また、高価格帯のレクサスも前年比1.3倍(※1)、クラウンも2.4倍(※2)と、収益性の高い車両が多く売れたことも利益を押し上げているとわかります。
※2 日本自動車販売協会連合会発表の「ブランド通称名別ランキング」より、2022年、2023年の新車登録台数を比較
もう一つは、値上げ効果です。米コックス・オートモーティブ社の報告によると、米国でのトヨタの新車取引価格は直近4年間で19%上昇。23年7~9月期には平均4万674ドル(約610万円)に達しました。このように北米・欧州を中心に車両価格を改定(値上げ)したことなどで、9200億円利益を押し上げました。