ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案したのが、著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』。著者が言うパリジェンヌとは、「すっぴん=ありのままの自分」をさらけ出し、人生イロイロあっても肩で風を切って生きている人のこと。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように自分らしく生きる考え方をお伝えします。
「心配して損したわ。シングルマザーになって苦労しているのかと思ってた!」
ルイ・ヴィトンのパリ本社に入社して6年目。離婚も成立し、晴れてディレクターに昇進した私は30代半ばに差し掛かる頃でした。ちょうど同じ時期に離婚を成立させたのが、友人でテレビ番組のコメンテーターをしているマリーでした。私と違うのは、彼女が既に子持ちということ。本人曰く「できちゃった婚」だったため、ちょうど7歳になる幼い娘を抱えていました。
久しぶりに一緒にランチをすることになったある日。私は「今日は聞き役に回ってあげよう」と朝から決心していました。マリーが離婚後、単身で子育てもしながら出張で飛び回り、さぞかし疲れているのではないかと心配していたのです。
現れたマリーはハツラツとしていました。お肌もツヤツヤです。コロコロとよく変わる笑顔がキュートな彼女は、注文を取りにきたボーイさんを釘付けにしています。マリーはそんな彼には目もくれず、メニューを長々と吟味しています。
よくよく考えて注文したのは山羊のチーズ付きサラダ、オニオン・スープ、そして生ハムの盛り合わせです。前菜、メインと一品ずつオーダーするのがフランス人の常ですが、マリーはそんなのお構いなしです。幾つもの前菜をオーダーするのが彼女のスタイルです。
運ばれてきたミネラル・ウォーターを飲み干しながら、マリーは一気に話し始めました。先週、新しい彼ができたこと。離婚経験者のステファンは10歳年上のアーティストで料理が上手なこと。いつも自宅で家庭料理を振る舞ってくれ、そのまま一緒にベッド・インをして一夜を明かすこと。地味な見た目に反して、実はびっくりするほど情熱的なこと。
弾丸のように喋り続けるマリーを見ながら私は思わず呟いていました。
「心配して損したわ。シングルマザーになって苦労しているのかと思ってた!」
「そりゃ、いろいろ切り回すのは大変だけど……」
「今が一番最高! 恋愛の醍醐味は離婚してからっていうけど、本当ね」
ちっとも大変じゃなさそうなマリーは続けました。
「今が一番最高! 恋愛の醍醐味は離婚してからっていうけど、本当ね」
「離婚してから始まる」というのは、私も経験者にさんざん聞かされてきた話です。私自身、ボーイフレンドと呼べる人はいましたが、まだまだマリーのように積極的に恋愛を謳歌する気分にはなれませんでした。
「じゃ、前に話していた彼、ピエールだっけ? あの年下の彼は振っちゃったの?」
サラダを頬張るマリーにそう差し向けると、マリーは即答しました。
「振っちゃいないわよ。キープしてるわ」
ピエールには私も一度だけ会ったことがありました。音楽学校に通うピエールは、マリーの娘のピアノの先生です。
「指使いがすごいのよ!」
そう言うマリーが褒めるのはピアノの才能ばかりではなさそうです。
「その新しいステファンのこと、ピエールにバレたりしないの?」
そう尋ねるとマリーは悪びれもせずに言いました。
「それがこないだバレそうになって焦ったわ。ステファンのところから朝帰りした時、彼のワイシャツを着たままうっかりデートに直行しちゃったのよ。ウイリアム、変な顔してたわ」
さすがの私も話についていけませんが、何のことはない、ウイリアムとはマリーの3人目の彼氏です。そう、マリーは3人の恋人を掛け持ちしているのです。