「でも、どうして3人も同時並行なの? 大変じゃない?」

 ステファンと出会う少し前に出会ったウイリアムは、名の知れた映画プロデューサー。文化関連のテレビ番組の司会を務めるマリーは、彼のおかげで「いろいろなコネが出来た」と満足そうです。

 私は先ほどから気になっていたことを単刀直入に聞いてみました。

「でも、どうして3人も同時並行なの? 大変じゃない?」

 マリーは生ハムに舌鼓を打ちながら言いました。

「それぞれに役割分担があるの。今の私にはみんな必要なのよ」

「1人の旦那より3人の恋人よ!」

 ステファンはマリーに安らぎを与えてくれる人。ピエールは母性本能をくすぐってくれる人。ウイリアムは仕事の面でいい影響を与えてくれる人。必要に応じて使い分けていると言うのです。

「1人の旦那より3人の恋人よ!」

 そう叫ぶマリーに、レストラン中の女性客が拍手喝采を浴びせるのでした。

 掛け持ちはマリーに限ったことではありません。同僚であれ、学生時代の友人であれ、私は離婚後に「掛け持ち恋愛」をするパリジェンヌを何人も見てきました。

 なぜ掛け持ちをするかといえば、まずは一人に束縛される結婚に失敗した反動、という比較的わかりやすい理由があります。けれども、どうもそれだけではないようです。マリーが掛け持ちをするのは、ただ単につまみ喰いをしたいからではありません。

「自分が最も必要としている人」を探し出すための労力は惜しまない

 食事のメニューを選ぶ際、マリーはオススメの「今日の一品」を注文したりしません。人と同じものを頼むなんてこともありません。彼女は時間をかけ、「自分が必要としているもの」を選び抜きます。

 消化酵素の働きを助ける生野菜のサラダ。冷え性の身体を温め、血行を良くしてくれるオニオン・スープ。そして、ちょっと羽目を外して、大好きな生ハムの盛り合わせ。選ぶ基準はいつだって自分です。

 恋人選びにもマリーは同じ手法を使います。育ちや学歴、収入は全く顧みず、「自分が最も必要としている人」を探し出します。そしてそのための労力は惜しみません。離婚していようが、シングルマザーだろうが、忙しかろうが何だろうが、積極的に恋人を探します。その結果、時にはお手つきをしたり、3人掛け持ちになったりしてしまっても、それはそれでオッケー。全然オッケーなのです。

 掛け持ちをするマリーは決して浮ついているわけではありません。案外、冷静沈着なのです。

※本稿は『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。