誰もが中学や高校の勉強で使ったことのある地図帳。多くの人は大人になるにつれて、読まなくなるかもしれないが、地図帳を深読みすることは非常にエキサイティングだ。地図帳のおもしろさを地図研究家が紹介する。本稿は、今尾恵介『地図バカ 地図好きの地図好きによる地図好きのための本』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋・編集したものです。
情報が古い昔の地図帳で
国名や地形の変化を味わう
学校の勉強がそれほど好きでなかった私が、中学校と高校で最も愛用した「教科書」といえば地図帳である。他の教科書はともかく、地図帳だけは帰宅後も擦り切れるほどページを繰って眺めていたので、今も保存してある当時のそれは、製本がほどけていくつものページがバラバラになった状態だ。
書き込みも多く、たとえば中学に入学する前月に開通したばかりでまだ記載されていない山陽新幹線(新大阪~岡山)をボールペンで早速記入しているし、熱心に集めていた5万分の1地形図の各図の掲載範囲をグリッド状に描いた。ローカル私鉄が廃止になれば鉛筆で塗りつぶしながらも、後でなぜか可哀想になって消しゴムで「原状復帰」させるなど、当時のあれこれを思い出す。
学校で使う地図帳を「教科書」と呼ぶのは意外かもしれないが、表紙の上部を見れば一目瞭然だ。たとえば手元の高校地図帳には「文部科学省検定済教科書・高等学校地理歴史科用」と明記されており、その下には教科名の欄に「地図」の文字がある。手間をかけて検定されているので間違いが非常に少なく、しかも中学校までは義務教育なので、大袈裟でなく全国民が一度は手にしている。