「リーダーは絶対読むべき本」「被害者や加害者にはならないためにもできるだけ多くの人に読んでほしい」と話題沸騰中の本がある。『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二/マンガ・若林杏樹)だ。自分はパワハラしないから関係ない、と思っていても、不意打ち的に部下からパワハラで訴えられることがある。本書は「そんなことがパワハラになるの?」と自分でも気づかない「ハラスメントの落とし穴」を教えてくれる。著者は人事・労務の分野で約15年間、パワハラ加害者・被害者から多数の相談に乗ってきた梅澤康二弁護士。これを読めば「ハラスメントの意外な落とし穴」を回避できる。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介する。

【社員のモチベ低下、離職の原因に 】「高すぎる目標」ってパワハラになる?Photo: Adobe Stock

「目標を設定すること」自体はパワハラではない

会社が設定した売り上げ目標が高すぎる、部署で決められた顧客とのアポイント件数に追われている、など仕事上の目標数字(ノルマ)に苦労する人は多いですよね。

「会社から提示されたノルマは、絶対に達成しなければならないもの」と考えている人が多いと思いますが、法律的にはどうなのでしょうか。

まず、企業は社員に対して、「業務の内容や品質を指定する雇用契約上の権利」があります。

そのため、その権利行使の一環として、社員に対して一定の業務目標を課すことも基本的に企業の自由です。

また、目標は達成されなければその意義が薄れてしまうので、企業が業務目標の達成を強く求めることや、業務目標が達成されない場合に改善を求めることも原則として許容されます。

そのため、会社から一方的にノルマを設定されたとか、ノルマを達成しなかったことについて叱責されたというだけでは、ただちに業務上適正な範囲を超えたパワハラであるということにはなりません。

どう考えても達成できないノルマは「パワハラ」になる可能性も

もっとも、このようなノルマ設定についてもやはり限度があります。

どう考えても達成できないノルマを設定したり、ノルマを達成できないことを理由に理不尽な要求をしたりする行為は、業務上適正な範囲を超えたパワハラであると評価される可能性があります。

では、どんなノルマ設定がパワハラになるのでしょうか?

まず、ノルマはほとんどの場合は、業務上のことで設定されるため、よほどおかしなことがないかぎり業務との関連性はある、といえます。

そのため、「業務上の必要性」と「常識的に許容される行為か(態様の相当性)」の観点からジャッジしていくことになるでしょう。

連日連夜、長時間の残業しないと達成できない…

【事例】
20代女性。入社早々、営業部に配属され、新規開拓の毎月の目標を持たされた。ノルマを達成するために、日中は電話でアポイントをとったり、商談があったりして、会社に戻ってくるのは夕方以降。それから上司の雑務の手伝いや議事録を作成する作業などもあり、定時は18時だが、会社を退社できるのは毎日23時過ぎになっている。上司からは「昔はもっと大変だった(から、これくらいのことはやって当然)」と言われている。

【解説】
ノルマを達成するために残業すること自体は、めずらしいことではありません。

ノルマは企業から与えられた「達成すべき仕事」であり、これを定時の間で処理できない場合は、残業で対応することはむしろ当然の対応といえそうです。

したがって、「ノルマ達成のために残業が必要である」ということのみで、ノルマ設定がパワハラであるということにはなりません。

しかし、次のようなケースは検討の余地があります。

●ノルマ達成のため、毎月の残業時間が80時間や100時間となることが続くなど、過剰な残業を要する

●ノルマを達成していないことを理由に、残業代の全部または一部を支払わない

このような場合は、ノルマの設定→残業指示という一連の行為が常識を欠くものとして、業務上適正な範囲を超えたパワハラであると評価される可能性は十分にあります。

部下が異常な長時間労働をしている場合は、管理職のサポート、目標再検討が必須

現行法では月100時間以上の残業命令や、2~6ヵ月平均80時間を超える残業命令は違法であり、残業に対して残業代を支払わない行為も違法です。

このような場合には、ノルマの設定行為もふくめてパワハラである、と評価される可能性は否定できないといえます。

また、管理職がなんらかのノルマを設定する場合、現実的に可能なものかどうかに留意して設定する必要があります。

仮に、ノルマ達成のために部下が異常な長時間勤務をしている場合には、サポート要員を増員するなどの措置も検討する必要があるでしょう。

また、社員が常に長時間の残業を行っている場合は、管理職はノルマ設定に無理があるのではないかと、今一度検証・調整することも積極的に検討すべきでしょう。

『それ、パワハラですよ?』では、「そんなことがパワハラになるの?」という意外なパワハラグレーゾーンの事例を多数紹介。上に立つ人はもちろん、すべての働く人が読んでおきたい1冊。

[著者]梅澤康二
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員)
2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。