「あの人、パワハラで異動・降格になったらしいよ?」など、職場でパワハラが話題になることがありますよね。自分はパワハラしないから関係ない、と思っていても、不意打ち的に部下からパワハラで訴えられることもあります。「え? そんなことがパワハラになるの?」というパワハラのグレーゾーンはけっこうあるからです。そんな思わぬ「ハラスメントの落とし穴」を教えてくれるのが『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二/マンガ・若林杏樹)です。「上司も部下も、社会人全員が一度は読むべき本」「被害者や加害者にならないためにもできるだけ多くの人に読んでほしい」「上層部に、強制的に読んでほしい1冊」と話題になっています。著者は人事・労務の分野で約15年間、パワハラ加害者・被害者から多数の相談に乗ってきた梅澤康二弁護士。これを読めば「ハラスメントの意外な落とし穴」を回避できます。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介します。

【一発アウト】部下に残業させるときに、管理職が言ったら絶対NGな発言とは?Photo: Adobe Stock

法律の範囲内であれば、残業させること自体は問題はないが…

会社員の場合、毎日定時で帰れるケースはめずらしいですよね。残業を当たり前のようにしている方は多いかと思います。

しかし、社会的に長時間労働を是正しようという流れも活発化しています。

とくに新型コロナウイルスの流行によって、働き方に大きな変革が生じたあとは、残業時間はより削減されるべきという風潮が強まっています。

長時間労働は、法律的にはどこまで許容されるものなのでしょうか。

雇用契約で就労時間の定めはありますが、業務上必要がある場合は、これを超えた残業を命じることができる場合がほとんどです。

労働者も残業を指示された場合には、正当な理由がないかぎり拒否することはできません。

しかし、残業命令は、法律や契約の範囲内で行われなければなりません。

現行法では月100時間以上の残業命令や、2~6ヵ月平均80時間を超える残業命令は違法であり、残業に対して残業代を支払わない行為も違法です。

「残業代を請求するな」を匂わせたらアウト

会社が社員に残業をさせた場合には、法律上の管理監督者に該当しないかぎり、時間外労働・休日労働について割増賃金を支払う義務があります。

そのため、上司が部下に対して「お前のせいで仕事が遅れているのに、残業代まで取ろうとするのはおかしい」「この会社では誰も残業代をつけている人はいない」「残業時間の上限をオーバーすると、あなたの評価にも響く」などと言って残業をつけられないよう圧力をかける行為は、それが明示的にされても黙示的にされても、業務の適正な範囲と認められる余地はありません。

このような行為は、労働者が正当な対価を請求することを不当に抑圧し、その職場環境を大いに害する行為として、パワハラと評価される可能性は高いと考えます。

部下の長時間労働が恒常化…管理職がすべきこととは?

【事例】
30代男性。上司や先輩が毎日深夜まで残業しており、帰りづらい。夜10時に帰ろうとすると、上司から「帰るのが早い」と言われる。

【解説】
上司や先輩が仕事で残っているので帰りづらい、という経験は誰しもあるかもしれません。

部下が帰りづらい雰囲気を感じ取って、自発的に居残っているだけの場合、この状況を是正しないことがただちにパワハラになるかと問われれば、答えはNOです。

なぜなら、社長や上長が積極的に居残りを命じているわけではないからです。

もちろん、社長や上長が居残っている社員を気遣って帰宅を促してやればよい、というのはその通りです。

でも、そのような気遣いをする義務があるわけではないため、この気遣いがない=パワハラであるという評価はできないのです。

ただし、居残りが常態化しており、社員の拘束時間や労働時間が恒常的に長時間化している場合は話が別です。

会社は労働者に対して「安全な職場を提供する義務(安全配慮義務)」を負っており、労働者に過剰な長時間労働をさせない義務もこの義務にふくまれます。

いくら自発的に居残りをしているからといって、その時間が長期化しているのに、管理職が見て見ぬふりをしてこれを黙認しているような場合には、会社側の対応が業務上適正な範囲を超えていると評価される可能性はあります。

今回のケースのように、部下が帰宅することについて上司が「帰るのが早い」と言ったり、「周りが残っているのによく帰宅できるな」などと嫌味を言ったりすることを繰り返せば、違法なパワハラになる可能性は否定できません。

また、違法な長時間労働が恒常化する中で、部下が上司より早く退社することについて強く叱責したり、人事考課を下げたりするなど雇用上の不利益を与える行為を繰り返した場合は、事実上、長時間労働を強要する行為としてパワハラと評価される可能性は相当高いと考えます。

『それ、パワハラですよ?』では、「そんなことがパワハラになるの?」という意外なパワハラグレーゾーンの事例を多数紹介。上に立つ人はもちろん、すべての働く人が読んでおきたい1冊。

[著者]梅澤康二
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員)
2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。