チームメートには、野球以外も得意な「スポーツ万能」な選手が何人もいるが、残念ながら僕はその真逆のタイプだ。

 サッカーをはじめとする球技はからっきしだし、テニスやバドミントンといったラケットを使う競技も下手くそ。脚は遅いほうではないが、だからといって、もし野手として盗塁王のタイトルを獲得できるほどかといえば、絶対にそんなことは不可能だ。

 もちろん「野球を好きな気持ちだけは誰にも負けない!」という気持ちはあるけれど、プロ野球選手なら誰だって同じように思っているだろう。それにそもそも人の気持ちなんて比較しようがない。

 では、僕の人より優れた野球の能力とはなんだろうか……答えはなかなか見つからない。

 ただ、そんな僕も今年でプロ野球選手生活16年目を迎える。その間、幸運にも最多勝や最高勝率といった投手部門のタイトルを獲得することができた。リーグMVPに輝いたこともあるし、憧れていたメジャーリーグのマウンドにも立った。

 僕にも人より優れている点がきっとあるはずだ……そうやって考えていく中で、冒頭の問いにあえて答えを出すなら、「他人より優れていない点」ではないかと思う。より正確に言えば、「自分で他人より優れていないと認められること」が僕の長所なのだ。

 自分に足りないものがあると思えたからこそ、僕はまじめに練習を続けることができた。自分が未熟であると感じていたからこそ、人からのアドバイスにも素直に耳を傾けられた。

 早稲田大学時代に僕は、現在もパーソナルトレーナーを務めてもらっている土橋恵秀と出会い、野球選手として大きく成長できた。彼との出会いが僕の野球人生を大きく変えたといっても過言ではない。

「和田のボールは速くなる」

 彼のその言葉を信じて、その出会いを実りあるものにできたのも、僕が「自分は他人よりも優れていない」と認めていたからに他ならないのだ。