スウェーデン王室の事例は
悠仁さまの順位変更の前例にはならない

 スウェーデンではカール16世グスタフ王の子として、長女ヴィクトリア王女に続き、カール・フィリップ王子が生まれ、国内での激しい議論の末、国王の反対を押し切り、ヴィクトリア王女が将来の女王とされた。

 このスウェーデン王室のケースが、すでに生まれた子に適用した順位変更の唯一の例だ。とはいえ、順位変更は物心つくまでに行うべきだということで、カール・フィリップ王子が5月に誕生後、11月に法律改正、翌年1月に発効した。

 したがって、すでに成年に達している悠仁さまの前例にはなるまい。

 スペインでは伝統的に国王の子のなかで男子優先だが、女子だけなら女王となることになっており、現在も同じだ。現国王のフェリペ6世には2人の王女しかいないので、長女のレオノール王女が皇嗣であり、女性ながら職業軍人としての訓練を受け王位継承に備えている。

 スペインは、2度も王制が倒れて共和国になるなど、何かと不安定だ。とくに、19世紀において、国王には王女しかいなかったため、弟でなく自身の王女に継承させたところ、内乱(カルリスタ戦争)が起き、王制転覆につながった苦い思い出がある。

 一方、男子優先については国内で改正論もあり、CEDAWから勧告されたこともあるが、無視されている。CEDAWの委員長はスペイン人のアナ・ペラエス氏で、彼女が母国の状況に影響を与えたいために日本の皇位継承について言及することに固執したともいわれる。

 いずれにせよ、CEDAWの勧告に従って欧州各国の例にならったところで、遡及適用はしないのが国際常識だということこそが重要である。現実として、悠仁さまは将来の天皇として厳しい帝王教育を受けられており、心身ともになんの問題もない。

 また、現在の国会での検討の土台である「安定的な皇位継承策を議論する有識者会議」(座長・清家篤前慶応義塾長)の報告書が「結婚後の女性皇族単独残留」と「旧皇族養子」という二つの新提案をしたのは、国際常識に従っても悠仁さままでの継承は当然であるなかで、将来も男系男子継承を守ることも可能にしつつ、女系継承への芽も残した合理的な苦心の産物である。

 世襲君主制は、長い歴史をもつルールに沿って運用されることで、強固な国民統合の礎となる。したがって、現行の制度で支障がない限り、変更には慎重であるべきだ。

 まして、上皇陛下退位のときに制定された新たな法律にもとづき秋篠宮殿下が「立皇嗣礼」まですまされ、皇太子と同様であることを明確に定めたのである。その長男である悠仁さまが将来の天皇としての歩みを重ねておられるのを中断させる合理性は何もないし、その変更の可能性を議論するだけでも、国民の分断を招く。

 ただ、悠仁さまのあとも、順調に継承が行われるとは限らず、その場合に、旧宮家の人々によって伝統的な男系男子継承を守るのか、女系継承も可とするのかは、今後の課題だろう。

 とはいえ、悠仁さまから次の世代への継承は今世紀の最後あたりのことなのだから、両方、可能なようにしておけばいいことだ。ただし、どちらかの方法だけにすると、十分な皇位継承候補者を確保できない恐れもある。

(評論家 八幡和郎)