また、介護保険サービスが利用できるようになれば安心というわけでもありません。

 先にご説明したように、介護保険制度は、かつて家族が担っていた要介護者の「心身のケア」を、社会で共有するために作られたものです。その「心身のケア」には、要介護者の生活全般のマネジメントは含まれていないのです。

 たとえば、お金の管理や公共料金などの支払い、ペットの世話、庭木の手入れなどは、介護保険の対象外です。また、通院の際のつき添いなど、日常生活に必要なさまざまなサポートも介護保険だけではまかないきれません。

 介護保険サービスが提供しているのは、あくまでも「食事」「入浴」「排せつ」などの身体的ケアと、その周辺のサービスです。しかし、食事と入浴と排せつができれば生活が成り立つわけではありません。

「老後は介護保険があれば何とかなる」が大間違いなワケ『老後ひとり難民』(幻冬舎新書)沢村香苗

 結局のところ、生活全般のさまざまなマネジメントについては、誰かが別途、担う必要があるのです。

 繰り返し述べているように、介護保険はそもそも「面倒を見られる家族がいること」を前提に設計されています。

 しかし、核家族化や少子高齢化が進むなかで、家族の支援を受けられない単身高齢者は増加しています。こうした高齢者にとって、介護保険制度の対象外となる部分のサポートが受けられないことは、大きな課題になっているのです。