悩む人写真はイメージです Photo:PIXTA

現在、地方の高齢者住宅は深刻な状況にある。新規の建設が先細りで、供給が停滞しているのだ。また、サービスなどが不十分な高齢者施設や高齢者住宅の存在は、利用者に負のイメージをもたらすことにもつながっている。山陰地方で高齢者住宅や医療介護事業を手がける経営者が、超高齢化社会に必要な住居について提言する。本稿は、藤山勝巳『人生100年時代の地方高齢者の住まい』(幻冬舎メディアコンサルティング)の一部を抜粋・編集したものです。

首都圏では大手不動産が
高齢者住宅事業に続々参入

 現在の日本の高齢者住宅は、大都市と地方でまったく様相が異なります。大都市には低価格帯から超高級物件まで幅広い種類の高齢者住宅があり、介護付き有料老人ホームの開発とともに特に富裕層の自立高齢者を対象とした住宅の開発が今も活発です。しかし、それ以外の地方都市や大都市近郊の街では新規開発が先細りとなっています。見た目が質素な割に家賃が高く、積極的に快適さを提供し対価として利益を得ようというよりも、介護保険の範囲で採算の帳尻を合わせているようなところが多いと感じます。

 そのような違いが生じた大きな要因として、大都市には富裕層が存在し、一時金や家賃を非常に高く設定した高齢者住宅のビジネスモデルが成り立つことが挙げられます。一時金が数千万円、家賃が月数十万円でも需要があります。

 しかも、介護人材が不足している今の日本では、介護事業にはリスクが伴います。建物は建てられてもスタッフを集められずにオープンできなかったり、事業を維持できなかったりというリスクです。しかし、大都市部では、高齢者住宅の「住居」事業と「介護」事業のうち、「住居」部分の不動産賃貸業で黒字にできるため、「介護」で無理に利益を出す必要がありません。むしろ、要介護度が軽い人のほうが入居が安定します。

 このような背景があるため、大都市の高齢者住宅は二つに分かれる傾向があります。一つは、元気な人ばかり集めて介護が必要となったらなんらかの形で退去を促すところで、もう一つが、介護が必要になってから入るところです。大都市では、元気な人から要介護度が高い人まですべてに対応できる高齢者住宅は非常に少ないという状況です。

 これをビジネスチャンスととらえて、首都圏、特に東京23区では住居と介護の両方を兼ね備えた高齢者住宅事業に大手の不動産会社やデベロッパーがどんどん参入しています。片方だけにしたほうが業者としては収益を出しやすいとはいえ、消費者の側に立てば、やはり要介護になったら別の施設を探して移るというのは負担です。今後を見据えればそこにニーズが生まれることは間違いありません。大企業は経営に余裕があるため、目先のことではなく2040年に向けた経営戦略が練られているのだと思います。

 このように大きな規模で高齢者住宅事業を展開している大企業の多くは、介護職員や看護師にたくさんの給料を出しています。これからさらに労働力人口が減少し、人手不足が深刻化すると、人を集められるかどうかが非常に重要な要素になります。中小企業は大手に太刀打ちできなくなり、高齢者住宅事業は寡占化が進む可能性があります。