米国における生活必需品のコロナ前から
の累積価格上昇率
接戦予想を覆す一方的な展開になった米国大統領選挙。この結果は、予想以上に大きかった現政権への不満が主因とみている。移民流入がもたらす社会不安もあるが、それ以上にコロナ禍以降の高インフレへの不満が鬱積していた。
物価上昇は食品、衣服、ガソリンや電気料金、家賃などの生活必需品において特に顕著だ。個人消費デフレータのうち生活必需品の価格はコロナ前に比べて23%上昇したのに対し、それ以外の裁量的消費品目では17%にとどまった。
そのダメージは支出に占める生活必需品の割合が高い低所得の家計ほど大きい。コロナ直前は所得階層下位20%の家計の支出のうち51%が裁量的消費に向けられていたが、コロナ禍で急落後は回復せず今も48%にとどまる。生活必需品の支払いにきゅうきゅうとして余計な支出を我慢している状況だ。
その割に米国全体の消費が底堅いのは、高所得者層の消費意欲が旺盛なためだ。所得階層上位20%では家計支出に占める裁量的消費のシェアはコロナ期もさほど低下せず、最近ではコロナ前の66%を僅かながらも上回っている。所得階層上位20%が米国の消費全体に占めるシェアは4割、裁量的消費に限れば45%に近い。高所得者層に支えられる米国消費という構図がコロナ禍で一段と明確になった。
マインド面でも消費格差は拡大した。コロナ発生直後は所得を問わず大きく振れていた消費者信頼感指数は、インフレが顕著になった2023年以降は所得上位層が回復する一方で低位層は停滞を続ける二極化が進んでいる。
米国大統領選の帰趨を最終的に決めるのは経済情勢といわれ続けて久しい。今回は久方ぶりの高インフレが長引いて低所得者層への後遺症が甚大だったことが強い現職批判につながったとみている。本来民主党支持の多い有色人種の票が低所得者層を中心にトランプ氏側に流れたことは一つの証左だ。
こうして誕生する第2次トランプ政権が財政、移民抑制、高関税などインフレ的な政策を標榜しているのは皮肉なことだ。ただ、その物価への影響を米国選挙民が実感するのは26年以降になろう。
(オックスフォード・エコノミクス在日代表 長井滋人)