米国の上下両院において共和党は多数派を奪還した。トリプルレッドを背景に大統領に返り咲くトランプ氏は思い通りに政策を進めることが可能になった。トランプノミクス2.0は米国経済にどのような影響を及ぼすことになるのか。景気・雇用・物価へのインパクトを検証した。(みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部プリンシパル 小野 亮)
堅調な経済を背景に
利下げをゆっくり進める余裕あり
11月7日、FOMC(米連邦公開市場委員会)は0.25%の利下げを決め、利下げバイアスも維持した。米国経済は堅調に推移しており、雇用と物価のリスクが均衡していることを考えれば、FOMCには、ゆっくりと利下げを進めるだけの余裕がある。
しかし、米大統領選で米国第一主義を掲げるトランプ氏が地滑り的勝利を収めたことで、今後、米金融政策を巡る環境は経済・政治の両面で大きく変化していく。
まずは米国経済の現状を確認しておこう。11月FOMC後の記者会見でパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が繰り返し強調したのは、米国経済の堅調さであった。
今年7~9月期の実質GDP(国内総生産)は前期比年率2.8%の伸びとなり、前期同様のハイペースで拡大した。高金利によって住宅や商業ビルなどの建設活動は悪化しているが、個人消費が景気拡大のけん引役となっている。
米大統領選では、物価高が有権者の最重要関心事となり、若者や低所得層の不公平感がトランプ氏勝利の原動力になったと言われているが、マクロで見た個人消費にその影は見えない。良好な雇用・所得環境が崩れていないことが鍵である。
10月米雇用統計では非農業部門雇用者数が前月差1.2万人増と事前予想を大幅に下回る伸びとなった。
しかし、「悪天候を理由として働くことができなかった労働者」の数が51.2万人と、前月の約10倍に膨らんだことを考えると、ハリケーンの影響が予想以上に大きかっただけとみられる。失業率は4.1%で前月と変わっておらず、雇用情勢に変調はないと考えるのが妥当である。
労働需給はややタイト気味ながらも均衡に向かっており、雇用コスト指数で見た名目賃金も伸びが鈍化している。とはいえ、米消費者の購買力を表す実質ベースの可処分所得の伸びは、3四半期連続で前年比3%を上回っており、個人消費を支えている。
物価面では緩やかなディスインフレ基調が続いている。コア個人消費支出デフレーターで見たインフレ率は前年比2.7%と高めだが、「3カ月前、6カ月前と比べると2.3%」(パウエル議長)であり、インフレ再燃のリスクは小さい状況となっている(下図表参照)。
次ページでは、トランプ氏の経済政策を項目ごとに取り上げ、それぞれの景気・雇用・物価への影響を検証していく。