東大の授業料引き上げ、「もう限界です」と訴える国立大学協会の異例の緊急声明。今、国立大学で何が起きているのか?2024年、法人化20年という節目に、朝日新聞が学長・教職員500人弱へ行ったアンケートに綴られていたのは、「悲鳴」にも近い声だった。長年にわたる取材で浮き彫りになった、法人化とその後の政策がもたらしたあまりに大きな功罪とは――。朝日新聞「国立大の悲鳴」取材班『限界の国立大学――法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか?』(朝日新書)より抜粋して紹介する。
トイレが改修できない!
「洋式待ち渋滞」が発生した金沢大学
「もう限界です」
2024年6月、全国86の国立大学で作る国立大学協会の永田恭介会長(筑波大学長)が急遽記者会見を開き、異例の声明を発表した。
教職員の人件費や研究費に充てる国からの運営費交付金が減らされたうえ、ここ数年の光熱費や物価の高騰が重なり、各国立大学の財務が危機的な状況にあると説明。国民に対して、「運営費交付金の増額を後押ししてもらいたい」と訴えた。
法人化された04年当初よりも減額されたとはいえ、今も国立大学全体で1兆円を超える運営費交付金を受け取っている。それなのに、なぜこんな悲鳴が上がるのか。危機的な財務状況に陥った国立大学では今、どんなことが起きているのか。
金沢大学の学生一人ひとりが安心して使えるトイレを、少しでも増やしたい――。金沢大学は23年秋、キャンパス内のトイレを改修する費用を集めるためとして、クラウドファンディングを行った。
同大が、金沢市中心部から、郊外の山あいの現在地に移転して30年余り。一気に改修時期を迎えたトイレの便器は当時、約300あった。
たかがトイレと思うなかれ。この30年で大きく増えた女子学生にとっては、特に譲れない問題だという。同大では数多く設置されている和式は敬遠され、「洋式待ち渋滞」が発生。「休み時間にトイレに行けない」といった不満も寄せられ、大学としても放置できない状況になっていた。
だが、ウクライナ危機が続き、コロナ禍かが明けたタイミングで、電気代や物価などが高騰していた。運営費交付金が抑制されるなか、乏しい自己資金だけで細々と改修していては、長い時間がかかってしまう。そこで学内外から寄付を集め、便器の洋式化や、床面の塗り替えなどの改修を前倒しすることにしたという。
目標額は300万円。本当に寄付が集まるのか、ふたを開けてみなければわからなかったが、わずか2カ月間で355万円も集まった。大学側の思惑以上の成果があがったという。一方で、金沢大学といえば、規模や研究成果などをみれば、「地方大学の雄」ともいうべき存在だ。ネット上では「どれだけお金ないのよ……」などと驚きの声が広がった。