国立大学では今、いささか切なさを感じるこうした事例が、各地で起きている。
朝日新聞が24年1~2月に、国立大学の法人化20年を機に実施したアンケートには、全国の学長や教職員から、「予算が足りずに学生の教育・研究環境に悪影響が出ている」と訴える声が続々と寄せられた。ふだん取材している私たちでも、「ここまでひどいのか」と驚くような、具体的な窮状を紹介するコメントも数多く届いた。
トイレについての厳しい現状については、別の大学の職員からも訴えがあった。「設備費にお金をかけられなくなり、トイレの水漏れも修繕できない」という。最先端の研究に打ち込む教員や、将来を見据えて懸命に学んでいる学生が、水漏れがするトイレを使っている姿を想像すると、いたたまれない気持ちになる。
今では、店舗や住宅でも、ほとんど見かけなくなってきた和式トイレ。だが、国立大学を訪ねると、今でも現役で使われているのを見かけることが多い。記者が23年に大学教育学会の取材をするために訪ねた大阪大学の工学部でも、一つの建物内で何カ所かのトイレを使ったが、個室はすべて和式だった。
大半の国立大学は、教育・研究の発展には多様な人材が交わることが必要だと考えている。政府も、多様かつ優秀な人材を確保したい産業界などの要請を受けて、工学部を中心に女子学生を増やそうと躍起になっている。このため、ここ数年、入試に女性しか受験できない「女子枠」を設けたり、女子中高生だけを対象にした説明会を開いたりと、女子学生を増やすために、あの手この手の対策に取り組む国立大学が増えてきた。
教育や研究の内容、入試方式などが重要であるのは言うまでもない。だが、学生は学部だけでも4年間、大学院の博士課程まで進むと、10年近く大学に通うことになる。長い時間を過ごすキャンパスの環境もまた、女性が気持ちよく学び、研究を続けるために重要な要素の一つだ。
かつてはバンカラのイメージが強かった大学も、キャンパスをリニューアルした際には、きれいなトイレをアピールポイントの一つにしていた。女性を積極的に受け入れる姿勢を示す格好のアピール材料となるからだ。明治大学は今や女子高校生の人気が非常に高い大学として知られるまでになっている。