どんなに隠してもバレてしまう理由
まず、特別受益に時効は存在しませんので、それが何十年前の贈与であったとしても、持ち戻しの対象になります。ただ、すべての贈与が特別受益になるわけではなく、「親族間の扶養的金銭援助を超えるもの」と位置付けられています。代表例でいえば、子供が家を買う時の頭金の援助が挙げられます。
他にも、結婚の際の持参金や支度金、大きな偏りのある学費(子供のうち、1人だけを医学部に進学させた場合等)も、特別受益とされる傾向にあります。また、贈与ではありませんが、親の土地に子が家を建て、地代を払っていない場合には、更地価額の1~3割の特別受益と認定される可能性があります(親子間の土地の貸し借りで地代を収受する場合には、複雑な課税関係が生じるので事前に税理士に相談してください)。
「偏った贈与をしても、他の子供に黙っておけば、バレないだろう」と甘く考えている方が多いのですが、あなたが亡くなった後、相続人は単独で、あなたの預金通帳の履歴を10年分取得できるようになります。
税務署が「生前贈与」を厳しくチェックする理由
また、相続税申告が必要な場合は、税務署の人たちも過去に贈与がなかったかを調べます。贈与は、あなたが亡くなった後に明るみに出る可能性が高いのです。調査官が主に見るのは、亡くなった方の過去10年分の預金通帳です。「相続税を(脱税的に)少なくしたいなぁ」と考える人は皆、似たようなことをします。
「通帳にお金が残っていると相続税がかかってしまうなら、何とか少なく見せかけよう」と、通帳から現金を引き出してタンスに隠したり、妻や子や孫の通帳に生前贈与を装って振り込んだりします。しかし、そういった痕跡は預金通帳にしっかり残ります。引き出した現金を実際に生活費として使っているのなら問題ありませんが、その真偽を調査官は厳しくチェックしていくのです。
なぜ10年なのかというと、銀行には10年分の履歴しか残っていないからです。もし、10年以上前の通帳の現物が残っているなら、それも調査の対象になります。過去の通帳は、良くも悪くも税務調査における重要な証拠になります。すでに処分してしまったものは仕方ありませんが、相続税の申告が必要になる方は残しておいたほうがいいですね。
年末年始、終活や相続について家族で話し合う際、ぜひ参考にしてください。
(本原稿は『ぶっちゃけ相続 お金の不安が消えるエンディングノート』を一部抜粋・追加加筆したものです)