インベストメントバンカー M&A請負人の正体#1Photo:d3sign/gettyimages

日本企業が関与するM&Aなどの取引総額(ランクバリュー)が、2025年に50兆円を突破した。24年の20兆円台から倍増した驚異的な膨張の理由は、豊田自動織機の非公開化やNTTによるNTTデータグループの完全子会社化などの大型ディールが相次いだことにある。その裏でシナリオを描き、取引が成立すれば数十億円、時には百億円超という巨額の成功報酬を手にするのが投資銀行だ。野村證券、米ゴールドマン・サックス、三菱UFJモルガン・スタンレー証券――。長期連載『金融インサイド』内の特集『インベストメントバンカー M&A請負人の正体』の#1で彼らの最新序列を明らかにし、過熱する人材争奪戦の内幕と市場の行方に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

M&A市場が25年で3倍の51兆円へ
1件129億円「大型案件時代」の衝撃

「アンダーインベステッド(投資不足)だった。日本の成長機会を考えれば、もっと(人員を)増やすべきだ」

 世界屈指の金融グループ、米ゴールドマン・サックス(GS)の日本法人で投資銀行部門を率いる高鍋鉄兵共同部門長は、米ニューヨーク本社のトップ経営層からそんな声を聞くようになったという。「この仕事を26年近く続けてきて、これほどまでに日本が世界から注目され、成長への期待を寄せられているのは初めてだ」(高鍋氏)。

 高鍋氏は2000年にGSに入社し、M&A(企業の合併・買収)助言などを手掛ける投資銀行業務を日本に根付かせた第一人者の持田昌典前社長の下、四半世紀にわたって市場を見つめ続けた。その高鍋氏が、今の日本を「初めて迎えたグロース(成長)の局面」と位置付けることは、市場の潮目が完全に変わったことを意味している。

 実際、日本のM&A市場は今、まさに歴史的な沸点に達している。

 2000年代初頭、M&A取引額は年間10兆~15兆円規模で推移していた。05年にライブドアによるニッポン放送買収劇などで一時20兆円近くまで膨らんだものの、その後はリーマンショックや東日本大震災を経て長らく10兆円前後で低迷した。

 しかし20年代に入り潮目が変わる。東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ改善要請やコーポレートガバナンス・コードの浸透により、日本企業の資本効率に対する意識が劇的に変化した。25年には取引総額が51.1兆円超と過去最高を更新し、2000年代初頭から市場規模は約3倍以上に膨れ上がっている(下図参照)。

 特筆すべきは、案件の「質」の変化だ。25年の案件数は3951件と、前年の4021件から微減しているものの、総額が倍増したことで1案件当たりの平均取引額は上昇した。24年に約59億円だった1案件当たりの規模は、25年には約129億円へと急拡大しており、日本市場がかつてない「大型案件の時代」に突入したことを物語っている。

 現在の活況ぶりについて、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の別所賢作投資銀行本部長は「企業活動のダイナミズムとスピード感が増している」と語り、大和証券の山本徹グローバル・インベストメント・バンキング本部長も「案件の数もさることながら、1件当たりのサイズがかつてないほど大型化している」と、現場の肌感覚を明かす。

 熱狂の先にある26年、日本経済を揺るがす次なるメガディールを狙い、インベストメントバンカーたちはすでに動いている。

 覇権を争う投資銀行が描く再編シナリオとは何か。野村證券、三井住友やみずほらメガバンク勢の投資銀行トップに取材し、ベールに包まれた投資銀行の最新序列と、案件急増の裏で勃発した人材争奪戦の最前線に迫る。

 さらに次ページでは、「30代で2500万円もの年収格差が生じる」とも言われる外資系と日系の給与格差を、独自入手した職位別の年収推移データとともに詳報する。