今は「みんな仲良く」が正義とされる時代だ。会社や学校から「競争」が排除され、業績や成績を人と競い合うことがなくなった。一見すると居心地の良い環境だが、競争を通じた「学び」や「成長」の機会を失ったともいえる。かつて「ホワイト企業」と呼ばれた職場が若者から「ゆるブラック」と揶揄されるように、生ぬるい環境に危機感を抱いている人も少なくない。
そんな状況を打破するヒントが、「ライバル」の存在にある。そう話すのは、金沢大学教授の金間大介さんだ。モチベーション研究を専門とし、現代の若者たちを分析した著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』が話題になるなど、メディアにも多数出演している。その金間さん待望の新作『ライバルはいるか? ー科学的に導き出された「実力以上」を引き出すたった1つの方法』が刊行。社会人1200人に調査を行い、「ライバル」が人生にもたらす驚くべき価値を解明した。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、インタビュー調査で判明した「ライバルに対する意外な感情」を紹介する。

職場で「同期と競いたくない」と考える人はもったいない。インタビュー調査で判明した意外な事実とはPhoto: Adobe Stock

たくさんいる人たちの中で
どこか気になる存在

 その名前を聞くと、なぜかほんの少しだけ心拍数が上がる。そんな相手はいないだろうか。

 それは交際相手の名前かもしれないし、喧嘩中の友だちの名前かもしれない。あるいは、職場の同期の名前かもしれない。

「今度の新企画プロジェクトのチームに、〇△さん、□×さん、それからKさんに加わってもらいます」

 淡々としたアナウンスの中、「Kさん」という響きに鼓動が跳ねる。これは、僕のインタビュー調査で回答してくれた31人のうちの1人、Hさんのストーリーだ。

 HさんとKさんは、出身大学は別々だったものの、入社前の内定者バイトで同じグループになったときからの付き合いだ。
 ときに人は、付き合い始めて間もない人に対して、「気になる」という感情を抱くことがある。それはもちろん恋心とか、そういう類いの感情とは別に、だ。

 なぜなのか理由はわからないけど、どこか気になる存在。同期は他にもたくさんいるのに、なぜか気になるひとりの人。

 HさんにとってのKさんは、まさにそんな存在だった。

 第一に、Kさんはとても優秀だった。
 単に知識が多いとか、頭の回転が速いというのとは少し違う。もちろんそれらも優れているのだろうけど、それなら他の同期だってそれなりだ。「ものの見方」とでもいうのだろうか。考え方がブレず、思考の軸がはっきりしている感じ。

 それは周りの人も感じているようで、Kさんが発言するときは皆、すっと発言内容に集中する空気があった。

自分とは真逆のタイプの人がそこに

 Hさんは、もう1つ、Kさんと接していてわかったことがあるという。
 それは自分とKさんは、全くタイプが異なるということ。

 Hさん曰く、自分はどちらかというと周りを見ながら物事を考えるタイプ。「周りに合わせる」とまでは言わないが、頭の中で「この人はこういう風に考えてるんだな」「この人はこういう意見を持っているな」と把握しようとする。
 以降はHさん本人の言及だ。

 なので、自分は全体の流れを後押しするような発言は比較的得意だと思います。自分がそういった発言をすることで、周りの人が安心する様子を見ると、発言して良かった、間違ってないんだ、とホッとしますね。ただ、新しいアイデアが求められるような場では、うまく貢献できません。データを見たり、議論に参加したりしているときに些細なアイデアを思いつくことはあるのですが、そのアイデアがその場に適しているかどうかを判断することができず、どうしても言いよどんでしまう感じです。

 Hさんは、そのことがちょっと悔しく、またそんな自分がちょっと嫌いだという。
 それもあってか、先ほどのKさんに対しては、次のような感情を抱いていた。

 逆に、Kさんにはそんな素振りは一切ないんですよね。Kさんは、何らかの考えがあるときはちゃんと自分から発言しますし、当たり障りのないことを言って取り繕うような真似はしない。それに、議題がある程度先へ進んでいるときでも、『すみません、なんかさっきの件、引っかかるんですよね。もうちょっと考えていいですか?』といった風に、自身のこだわりを披露することにためらいがない。だから、どうしたらそんな風に振る舞えるんだろうと、気になるんです。Kさんは明らかに自分にないものを持っていて、Kさんを見てると、否が応でもその事実を突きつけられるんですよね。

 では、HさんはKさんのことが嫌い(あるいは苦手)ということなのだろうか。