彼の「一切見ない」という発言はおそらく、実際には少し誇張した表現だったのでしょう。彼も、特定の時間に通知を確認する時間を確保していたと思います。さらに、このマネージャーには秘書がいたので、本当に緊急で必要な連絡は、秘書を通じて伝えられる手段が整っていました。
秘書がいない立場の人であっても、部署共有の連絡用メールアドレスを用意するなど、「通知管理を複数の人で分担する」という考え方は、チームで働く環境では非常に参考になります。このマネジャーのスタイルは、すべての通知をリアルタイムで確認するのではなく、通知対応の責任や時間をうまく分散し、集中力を保ちながらも必要な情報を逃さない方法を示していると感じます。
近年では、秘書の代わりにAIエージェントが通知を管理してくれるサービスも登場しつつあります。AIが通知の重要度を判断し、ユーザーに代わって対応してくれる未来もそう遠くはないかもしれません。
プロダクト運営者が
気を付けるべき通知のあり方
最後に、通知を配信する側のサービスやプロダクトの運営者の立場では、通知についてどのように考えるべきか、少し触れておきたいと思います。
通知は、ユーザーに情報を伝え、行動を促すための有効な手段です。しかし、使い方を誤るとユーザー離れを招きかねません。
サービスやプロダクトの作り手側は、まずその通知がユーザーにとって本当に必要な情報か、価値のあるものかを吟味する必要があります。その上で、「ユーザーに見せたいもの」と「ユーザーが見たいもの」のバランスを意識する必要があります。押しつけがましい通知は、ユーザーに不快感を与え、通知をオフにされてしまう可能性があります。
そのためには、ユーザーの行動履歴や属性を分析し、パーソナライズされた通知を心がけなければなりません。
通知の頻度やタイミングも重要です。多すぎると煩わしく、少なすぎると存在を忘れられてしまいます。ユーザーの生活リズムを考慮し、適切なタイミングで、必要な時にだけ届くように調整することが重要です。また、ユーザーが通知の種類や頻度を自由に設定できる柔軟性を提供することも、ユーザーに喜ばれる通知、ひいては喜ばれるサービス・プロダクトにするためには大切なことです。
ユーザーに寄り添った通知を設計することはプロダクトの価値を高め、ユーザーとの良好な関係を築くことにつながるでしょう。
(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)