世代ごとに
描くリーダー像が違う

 もちろん出世には、個々の職場文化や上司の好みが大きく影響する。ただ、どうも世代ごとに、“偉くなる人とはどういう人か”というイメージに対する先入観があり、それが現在の“感じが悪くても出世する”“感じが良い人は出世しにくい”という事情に影響を与えているようだ。

 例えば、現在の経営幹部層の世代には、下記のような先入観がある。

 1つ目は、“リーダーには際立った強さが必要”――リーダーとは強い意思を持ち、周囲の反対にもかかわらず、果断な決断ができる人物である、というものである。

 これは、テレビドラマや企業小説などによって、偶像化されたリーダー像の影響が大きい。対照的に、協調的で優れたコミュニケーションスキルを持ちながら、積極的に前面に出ないタイプのリーダーは過小評価されやすい。

 2つ目は、リーダーは“清濁合わせ飲むべき”――偉くなるには、少々まずいことや危険なことも容認できる器の大きさが必要であり、そのためには強権発動も辞さない悪い人でなければならない、という考え方である。

 道徳的あるいは倫理的に優れた行動を重視する人物や、それができそうにない真面目で正直な人は小さい人物であり、出世に適さないと考えるのである。

 3つ目の先入観は、“いい人は決断ができない”――協調性や親しみやすさが高い人物は、「いい人」であり、意見が割れた際には何もできない、というものである。

 しかし、実際には、対話をもとに、意見の違う人をまとめていくリーダーも多数おり、それらのコミュニケーション技法も開発されているから、その評価は単なる思い込みに過ぎないのだが。

 このように昭和や平成の初期にテレビドラマや当時の役員の姿などで増幅されたリーダー像の先入観は、特定のタイプの人物や行動様式のみが組織の成功を創り出すという誤った信念を植え付け、組織内での多様性と革新を阻害する原因となっている。こうした考え方は、時代の変化にまったく追いつけていない。

 現に、昨今はハラスメントを厳しく取り締まる風潮が強まっており、ちょっとした言動でも、ハラスメントと認定されれば、それをもって「一発アウト」にもなりかねない。

 いずれにせよ組織や経営幹部は、出世の基準を再考し、さまざまなタイプの才能が認められ、公平に評価される環境を整えることが重要なのである。そして、少なくとも、“唯我独尊で規範を逸脱し、結果のためにコンプライアンス問題を起こすリーダー”は確実に排除するようにしなくてはならない。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)