ここ数年の大谷選手の大活躍とWBCの優勝で、栗山英樹監督の手腕ばかりが持て囃され、選手の育成能力がマスコミで喧伝されています。実際、栗山監督が大谷選手の二刀流としての起用法を考え、彼の力を引き出したのは間違いありません。しかし、大谷選手の活躍を栗山監督1人に語らせ過ぎているのではないでしょうか。
私は、大谷選手の活躍をもっともっと日本野球に還元するためには、山田・大淵コンビの考えを世間に知らしめ、それだけでなく日本のプロ野球界全体をマネジメントできる立場にしてほしいと思います。山田氏はGM引退後スカウト顧問として、大淵氏はスカウト部長として日ハムのフロントに在籍していますが、この経験をもっと日本球界全体に伝えるシステムを作り、それなりの役職を用意すべきだと考えます。
佐々木朗希は今渡米すべきか?
大谷一人の「大成功」では意味がない
たとえば、ポスティングシステム。今は広告代理店や、経営に将来が見えないスポーツ新聞の記者がポスティングの可能性の高い選手に群がり、社会経験のない彼らに対して早期のメジャー入りを勧めるケースが目立ちます。しかし、たとえば大谷選手は、日本に在籍した5年間で通算42勝15敗、奪三振624、打撃では通算296安打、46本塁打という成績をあげてから渡米しました。2016年には10勝して22本塁打を打っています。
今、話題の佐々木朗希選手は在籍4年で、奪三振505はさすがですが、まだ登板数64、通算22勝です。一方の大谷選手は投手として85登板、打者として403試合出場しています。渡米するにはどの程度の経験が必要か、アドバイスができるのは日ハムフロントの2人しかいないでしょう。
また、ポスティングによる渡米も当初は完全に入札制度でしたが、メジャーの25歳ルールの採用によって、日本球団が得る金銭も減りました。完全に米国の好きなようにされています。早期ポスティングをするなら、代わりに日本からも米国球団から若手有望株を1人獲れるといったルール変更を交渉することも必要なはず。さらには、韓国選手だけでなく中南米選手との比較も、データとしてもっと必要でしょう。
日本のプロ野球界は、地上波の視聴率が抜群に良かった読売巨人軍がリードしてきました。しかし時代は代わり、どの球団も観客動員は増えています。今こそ、もっと日本人選手の養成と権利を大事にする改革が必要なのではないでしょうか。大谷一人の「大成功物語」で終わらせてはならないのです。
(元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛)