日本の組織にダブらせると実に興味深い
村上春樹氏が描く主人公の「時代遅れ感」
小説家の村上春樹氏が新作を出版し、発売わずか1週間ほどで100万部を突破する人気を博している。
実は私も20年来のファンで、彼の作品はだいたい読んできた。また、村上春樹氏の小説は、臨床心理学的に大変興味深いという。ほとんどの作品で、彼の描く人物の行動、内容は、臨床家から見ると深い意味を感じさせるという。
私の知り合いの臨床家はそう語っていた。ただし『ノルウェイの森』だけは違う、とは言っていたが――。
日本のユング派臨床心理学の大家であった故河合隼雄氏とも、村上氏は長く親交があった。先日京都大学で行われた村上氏へのインタビューで、氏は「物語を書くには、人の心の深いところまで降りていく必要がある。その意味では、臨床心理と自分が物語を書くことには共通点がある」と語っていた。
私もそれには100%同意する。氏の描こうとするものは、いつも根源的で魅力的だ。だが、その描き方については疑問がある。そしてそのことは、今の日本社会が抱えている問題や、日本の会社組織が直面している問題と深く関わっているのだ。
氏の小説の主人公は、基本的には「他人と関わることを避ける」ように振る舞っている。新作の『色彩をもたない多崎つくると、彼の巡礼の年』にしてもそうだ。孤独に身を鎮めて、物事を客観的に見ようとする主人公は、彼の多くの作品に共通する。
そして、彼の紡ぐストーリーの中では、そんな「共同体から離れたがっている主人公」は黙っていても、色々な人からアプローチを受ける。そして他者との関係を深めていくのだ。気が付くと、主人公はその関係性の要となってストーリーが進んでいく。